
競争のグローバル化による人材の確保と育成、テクノロジーの急速な進歩に伴うスキルのアップデート、少子高齢化による人手不足など、多くの企業がさまざまな課題を抱えています。こうした課題を乗り越えるには多様性を受け入れる企業努力が求められます。
この記事では、企業が抱える人事課題の解決策として、ダイバーシティ経営によるDX・リスキリングの促進について解説します。
ダイバーシティ経営とは?

経営や人事に関わる方なら知っておくべきダイバーシティ経営。まずはダイバーシティ経営の全体像を把握しましょう。
ダイバーシティ経営の概要
ダイバーシティ経営(Diversity Management)とは、組織内での多様性を積極的に受け入れ、活用する経営手法です。多様性とは、性別・年齢・国籍・人種・宗教・性的指向・障がいの有無など、個人の異なる背景や特性を指します。
ダイバーシティ経営の目的は、これらの多様性を尊重し、企業として創造性や競争力を高めることです。
多様性の具体的事例
一言で多様性といっても、イメージが湧かない方もいると思います。そこで、具体的な事例をご紹介します。
1. 性別の多様性
女性のリーダーの割合を増やすために、女性社員向けのリーダーシップ研修を実施。
男女の異なる視点が組み合わさることで、よりバランスの取れた意思決定が可能になります。
2. 年齢の多様性
経験豊富なシニア層と若手社員が共同でプロジェクトを進行。
世代間の知識と経験の共有や新しいアイデアと伝統的な方法の融合など、既存の製品・サービスに捉われない新たな成長分野への進出につながります。
3. 国籍・文化の多様性
異なる文化背景を持つ社員をプロジェクトチームに配置。
固定観念を脱却した視点からの問題解決やグローバル市場への適応力が強化されます。
4. 障がいの有無
障害を持つ人材の採用と職場環境の整備。
単なる法的な根拠に基づく雇用ではなく、企業として社会的な包容力の強化や障がい者の能力を活かした新しい価値創造が可能です。
5. 性的指向
LGBTの社員に対するサポート体制の構築。
とりわけ偏見などによるストレスをなくし、社員の満足度向上を目指します。
このように、ダイバーシティ経営は単に多様性を受け入れるだけでなく、多様性を強みとして活用し、イノベーションや生産性の向上に結びつける戦略です。個人の違いを尊重し、それぞれの強みを最大限に活かすことで、企業全体としての競争力を高めることが可能になります。
ダイバーシティ経営が求められるようになった背景

ダイバーシティ経営が求められるようになった背景はビジネス環境が大きく変化しているからですが、その変化を端的に表現する言葉として「VUCA」があります。
表面化したVUCA
VUCAとは以下の4つの英単語の頭文字を取ったもので、現代の複雑で不確実な状況を表しています。
V:Volatility(変動性)〜経済の急激な変動、市場の不安定な動きなど。
U:Uncertainty(不確実性)〜未来の予測が困難な状況、情報が不足していることなど。
C:Complexity(複雑性)〜グローバル化やテクノロジーの進化などにより、経営環境が複雑化していること。
A:Ambiguity(曖昧性)〜正しい解答や方向性が不明確で多義的な状況。
実を言うと、コロナ禍以前からVUCAによる課題は警鐘されていましたが、コロナ禍によってそれが如実に現れたと言えます。
VUCAがもたらす企業への影響
VUCAの時代において、企業は次のような課題に直面しており、ダイバーシティ経営がより重要視されるようになりました。
多様な視点の必要性:VUCAの状況下では、一方的な視点では対応が困難です。そのため、個性や異文化など多様な背景を持つ人材が集まることで、複雑な問題に対して柔軟な対応が可能になります。
イノベーションの推進:不確実性や変動性の高い市場では、新しいアイデアや取り組みが必要です。多様性を活かしたチームは、創造的な思考が生まれやすいので、企業としては成長の促進につながります。
人材の確保と育成:労働人口の減少やスキルの多様化など、人材の確保が一層困難になる状況では、ダイバーシティ経営により、多様な人材を集めて育てる戦略が必要です。 VUCAの時代は、従来の経営手法だけでは市場環境の変化により、淘汰されてしまう恐れがあります。企業は持続的な成長を遂げるためにも、ダイバーシティ経営に注力し、新しい経営環境に適応することが重要です。
DXの推進もダイバーシティ経営
昨今しきりに耳にするDXの推進は、ダイバーシティ経営の一環として取り入れるべき戦略です。また多様性を受けいれるからこそ、DXの促進につながると言えます。
DX推進は国も応援
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して業務プロセス・企業文化・顧客体験などを根本的に変革する取り組みです。DXは企業が競争力を維持し、成長を遂げるために欠かせない要素として推進が急務と言われており、国も補助金・助成金を拠出して後押ししています。
DXとダイバーシティ経営の相関関係
DXとダイバーシティ経営は、表面的には別々のことに見えますが、相互に強化し合う関係にあります。なぜなら、多様性を尊重して活用するダイバーシティ経営は、DXのプロセスを支え、より効果的な変革を促進する力になるからです。
多様な視点により生まれたDXの事例
- 産業用IoTの活用
工場の生産ラインにIoT技術を導入し、機械の稼働状況や生産効率をリアルタイムで分析。人間の手作業による記録では、こうした生産プロセスの最適化と効率化は実現不可能でした。発想の転換による可能性を駆使した事例と言えます。 - ペーパーレス化の推進
社内の文書をデジタル化することで、情報共有のスピードアップとコスト削減を実現。「ITは苦手だから」の一言で紙面対応を続けていたら、利益率の改善は難しかったでしょう。新しいことにチャレンジする努力が生産性を高めた結果です。 - AIの活用
AIを活用したチャットボットを導入すると、顧客対応を自動化。人件費をかけずに24時間365日、顧客対応が可能となれば、大幅なコスト削減につながることは言うまでもありません。またこれにより、人間でないとできないことに時間をつかえるので、サービス向上が期待できます。
画期的な技術を積極的に導入することで、企業の成長につながることを証明した形です。
このほか、クラウドやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用・ビッグデータの解析など、DXにはさまざま可能性があります。お伝えした事例からもわかるように、多様性を受け入れることで、新しい発想が生まれるのです。
DX成功のコツはアジャイル的発想

ダイバーシティ経営がDXの促進につながるといっても、実際に取り組むのは私たち人間なので、社員一人ひとりのマインドを変えていかなければなりません。そこでおすすめするのが、アジャイル的な発想です。
アジャイルとは?
アジャイルとは、プロジェクト管理やソフトウェア開発における柔軟かつ迅速なアプローチのことです。大きなタスクを小さなタスクに分割し、短いサイクルで開発・評価・改善を繰り返します。顧客のニーズに素早く対応し、変化に強いプロジェクト進行を可能にするための方法論です。
アジャイル的発想で進めるDXの9ステップ
アジャイルの発想を取り入れたDX推進は、柔軟かつ迅速な変化への対応が求められる現代のビジネス環境において非常に効果的と言えます。以下は、アジャイル的発想によるDXを成功に導くための9ステップです。
- ビジョンと目標の明確化
何を達成したいのか、どう変革したいのかを明確にし、全体の方向性を共有する。 - 機能性の高いチームの構築
異なる部門や専門分野からメンバーを集め、多様な視点とスキルを活用する。 - アジャイルな開発
大きなプロジェクトを小さなタスクに分割し、短いサイクルで開発・評価・改善を繰り返す。 - 顧客中心の思考
顧客のニーズと期待を常に考慮し、顧客価値の創造を最優先にする。 - フィードバックの活用
定期的にフィードバックを収集し、それを次のアクションに反映させる文化を築く。 - 失敗を許容する文化の醸成
失敗を恐れずに新しい取り組みを試み、失敗から学び成長する文化を育てる。 - 技術とツールの適切な選定
アジャイルな開発を支える技術やツールを選定し、チームの生産性とコラボレーションを高める。 - リーダーシップとコミュニケーション
リーダーはサポート役としてチームを助け、オープンで透明なコミュニケーションを促進する。 - 継続的な学習と改善
常に学び続け、プロセスや成果を継続的に改善する姿勢を持つ。
こうしてアジャイルの発想をDXに取り入れることで、迅速に市場の変化に対応し、顧客価値を最大化する取り組みが可能になります。 ただ企業全体での理解と実践、文化の醸成が重要となるため、トップダウンのサポートと広範な教育・トレーニングが求められるでしょう。そういう意味でも人事担当者の責任は重大と言えます。
事業戦略に合わせた人材育成
ダイバーシティ経営によるDXの推進といっても、ある日突然に企業方針を転換したら、従業員は困惑してしまうかもしれません。そのため、周知から始めて、社員一人ひとりのマインドセットを整えることが大切です。
またその上で、必要なデバイスやソフトウェアの導入とそれらを扱う研修(リスキリング)を行います。
このVUCA時代にダイバーシティ経営を成功させるには「人」への投資が欠かせません。企業の持続的な成長と新しい価値の創造のためにも、戦略的な人材育成を行いましょう。
Winスクールでは事業戦略に合わせた人材育成プランの提案が可能です。
人材育成のプランニングと実行体制について、「自社では具体的な解決策を見出せていない」という企業はぜひ当社の人材育成ソリューションご活用いただけると幸いです。
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