

学び直しで転職&年収アップを実現したいけれど、いまの収入ではスクールには通えない。
将来のために何か資格が欲しいけれど、最近の物価高で学ぶ余裕がない。

こうした皆さんに朗報です。
2025年10月、働く人の学び直しを後押しする厚生労働省の新たな支援制度「リ・スキリング等教育訓練支援融資事業」 が始まりました。
今回の新制度では、リスキリングにチャレンジする方の不安を解消するために学費と生活費の両方をまとめて融資。さらに訓練修了後、条件を満たすと返済の一部が免除される「自立した学び直し」を経済面から後押しします。
目次
リ・スキリング等教育訓練支援融資が創設された背景
近年、リスキリングという言葉がメディアで頻繁に登場するようになりました。これは生成AIやデジタル技術の発展により、社会全体で仕事や働き方が急速に変わりつつある中、政府も「学び直し」を国家的課題と位置づけているからです。
実際、2023年には経済産業省が「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を開始し、2024年度以降も「人的資本経営・職業訓練の拡充・教育訓練給付金の強化」など、企業側も学ぶ側もサポートする制度が続々と進行しています。
しかしながら、これまで「やる気があってもお金が足りない」という理由で、スキルUPやキャリアチェンジをあきらめていた方は決して少なくないと思います。とりわけ社会人が仕事を離れて学び直すには、授業料だけでなく生活費の確保も課題です。
そうした課題を解消するために登場したのが、この 「リ・スキリング等教育訓練支援融資事業」 です。この制度は、厚生労働省が制度設計を行い、融資の実務を担うのは労働金庫(ろうきん)。「教育訓練給付金」や「求職者支援資金融資」と並ぶ、新しい支援の柱として位置づけられています。
リ・スキリング等教育訓練支援融資事業の概要
融資の対象者
この制度を利用できるのは、ハローワークに求職の申込みをしており、雇用保険被保険者・受給資格者でない方。つまり、今は仕事をしていないけれど、就職の意欲があり、スキルアップの必要がある方です。
加えて次の条件を満たす必要があります。
・過去に3年以上の就業経験があること
・訓練前にキャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードを作成していること
・年齢が18歳以上で融資開始時は66歳未満、最終返済時が76歳未満であること
・ろうきんの事業エリア内に居住していること
・他の給付・奨学金・融資制度を重複利用していないこと
これらの条件をハローワークが審査し、該当すると認められた人が制度を利用できます。
融資対象の教育訓練
訓練期間が1カ月以上4年以内のもので、かつ以下のいずれかに該当する講座が対象です。
1.学校教育法に基づく大学・大学院・短期大学・高専・専修学校・各種学校の教育訓練
2.厚生労働大臣が指定する教育訓練(教育訓練給付制度の指定講座)
3.公共職業訓練または求職者支援訓練
たとえば、大学の社会人コース、職業訓練校でのIT講座、専門学校での資格講座など、キャリア形成に直結する「学び直し」なら幅広く対象になります。
リ・スキリング等教育訓練支援融資事業の融資内容
学費+生活費で最大2年間、年利2%固定
この制度の最大の特長は、「教育訓練費用」と「生活費」の双方を同時に借りられることです。
区分 | 年間上限 | 対象となる費用 |
---|---|---|
教育訓練費用 | 年120万円 | 入学金、授業料、教材費、パソコン・タブレット、受験料、実習費など |
生活費 | 年120万円(10万円/月) | 訓練期間中の生活に必要な費用(家賃・食費など) |
原則として、最大2年間分(計480万円) まで借りることが可能です。ただし、離職者や年収200万円未満の人 は、生活安定を重視して 最長1年分 の融資が上限となります。
金利は 年2.0%(固定)。信用保証料(0.5%)を含む金利であり、担保・保証人は不要です。返済は訓練修了後1年を据置期間とし、その後10年以内に元利均等で行います。据置期間中は利息のみ支払うので、負担が軽く設定されているのが特徴です。
リ・スキリング等教育訓練支援融資事業はお金が戻ってくる?
努力が報われる一部返済免除のしくみ
この制度が注目を集めているもう一つの理由は、「返済免除制度」 の存在です。融資を受けて訓練を修了した後、以下の条件をすべて満たした場合、残債の一部が免除されます。
免除の条件(3つすべて必要)
1.求職者支援訓練・公共職業訓練・教育訓練給付金指定講座のいずれかを修了
2.訓練終了後1年以内に雇用保険被保険者として就職し、1年以上継続雇用されている
3.訓練前より賃金が5%以上上昇している
※融資時点で本人年収が500万円以上の人は免除対象外となります。
免除額の基準
・賃金5%上昇 → 残債の30%(上限100万円)を免除
・賃金10%上昇 → 残債の50%(上限150万円)を免除
このように、「学び直し → 就職成功 → 給与アップ」 という好循環を生み出せば、返済額の大部分は実質的に免除される可能性があります。これは単なる「借金」ではなく、努力の結果が返済条件に反映される報奨型の融資と言えます。
リ・スキリング等教育訓練支援融資事業の活用プロセス
ハローワークとろうきんが二段階でサポート
この制度を利用するには、ハローワークと労働金庫(ろうきん)の両方で手続き を行う必要があります。
【訓練開始前】
1.ハローワークで相談・申込「リ・スキリング融資を利用したい」と伝えて特定求職者の確認と制度説明を受けます。
2.キャリアコンサルティング・ジョブカード作成希望する訓練内容を決め、キャリアプランを可視化。
3.融資申請書の作成・提出ハローワークで必要書類を整えると、ろうきんへ案内されます。
4.労働金庫で審査・契約来店予約は振込期限の2週間以上前が原則。審査通過後に融資が行われます。
【訓練中】
1.3カ月ごとに報告・追加融資申込訓練の進捗をハローワークで報告し、必要に応じて融資を受けます。就職や中途退校の場合は速やかな連絡が必要です。
【訓練修了後】
1.返済免除申請(希望者)要件を満たしていれば、ハローワークの審査を経て残債の一部が免除されます。その後、修了1年後から返済がスタートします。
他の制度と何が違う?各支援制度の比較と注意事項
これまでの教育訓練支援制度と比較すると、本制度の位置づけが明確に見えてきます。
制度名 | 種別 | 支援内容 | 所得要件 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
職業訓練受講給付金 | 給付 | 月10万円+通所・寄宿手当 | あり(低所得者) | 返済不要だが対象が限定的 |
求職者支援資金融資 | 融資 | 月10万円(生活費のみ) | あり | 学費対象外、年齢制限66歳 |
リ・スキリング等教育訓練支援融資 | 融資+一部免除 | 学費+生活費を最大2年分 | なし(ただし免除対象は年収500万円未満) | 幅広い対象・返済軽減制度あり |
つまり、今回の新制度は「給付金を受けられない中所得層」や「学費の負担が重い層」にピンポイントでの支援を実現するための仕組みなのです。
もちろん、融資制度である以上、当然ながら 返済義務は発生します。そのため、利息を含めて返済できるかどうか、事前に生活設計を立てることが重要です。
また、ハローワークとろうきん双方での審査を通過しなければ利用できません。融資の目的が制度の趣旨に合わない場合(たとえば資格とは無関係な趣味講座など)は認められません。
虚偽の申請や返済遅延が発覚した場合は、債務残高の一括返済を求められるほか、信用情報機関に遅延情報が登録され、将来の住宅ローンやクレジット審査に影響する可能性もあります。
学び直しはあくまで「未来への投資」です。借入金は将来の自分への先払いと捉え、返済を見越した上で活用する姿勢が大切です。
まとめ〜人生100年時代、学び直しを「当たり前」に
今回の「リ・スキリング等教育訓練支援融資」は、単なる金融サービスではありません。厚生労働省が掲げる「誰もが何度でも学び直せる社会」を実現するための、実践的なインフラと言えます。
学びたい方が安心して学び、再び社会で活躍できるように。その循環をつくることこそが、この制度の最大の狙いです。
すでに多くの教育機関が制度開始に向けて準備を進めており、対象講座の一覧は文部科学省・厚労省・ハローワークの各検索サイトから確認できます。
あなたが「今、もう一度学びたい」と思ったその瞬間が、未来への第一歩です。そして、もし学習費用や生活への不安があるなら、この制度を知っておくだけでも選択肢が大きく広がるはずです。
リスキリングは一部の意識が高い人のものではなく、「誰にでも訪れるキャリアの転換期」を前向きに乗り越えるための共通スキルになりつつあります。
「お金の心配で学びを諦めない」そうした社会の実現に向けて、この新しい融資制度が確かな追い風になるでしょう。
本記事の情報引用元:
厚生労働省「リ・スキリング等教育訓練支援融資」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/reskillingtou_shienyushi.html
厚生労働省「教育訓練受講のための新たな融資制度について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001439702.pdf