

こんにちは! Shinobuです。
大阪でデザイナーとしての経験を活かしながら、デザインを学ぶ方のサポートをしています。初心者さんでも「なるほど!」と思えるように、ポイントを整理しながらお話ししていきますね。
はじめに
前回から「デザインの歴史」について、全3回のシリーズでお届けしています。
デザインの歴史を知ることは、「なぜ今のデザインはこうなっているのか?」を理解することにつながります。
さらに、生成AI時代に求められる「なぜそのように作ったのか?」という理由を説明できる力を身につけることにもつながります。
前回は、産業革命によってモノが大量に作られるようになり、デザインが生まれた背景を見てきましたね。
では、その「デザイン」は、その後どのように使われていったのでしょうか。
お店に並ぶ商品を思い浮かべてみてください。
似たような機能や価格のものが並んでいる中で、私たちは無意識のうちに「これがいい」と選んでいますよね。
そのとき、何を基準に選んでいるのでしょうか。
ロゴ? 見た目? 価格?
この「選ばれる理由」をつくる仕組みこそが、ブランドです。 今回の記事では、ブランドがどのように生まれ、どのように「戦略」として使われるようになっていったのかを、歴史の流れとともに見ていきます。
すべては「焼き印」から始まった
ブランドのはじまりを話す前に、まずは「ブランド」という言葉の語源をお話ししておきます。
「ブランド」という言葉の語源は、古ノルド語*の「brandr(ブランドル)」にあると言われています。
意味は、「焼き印を押すこと」。
8〜14世紀の北欧では、放牧している牛が他人のものと混ざってしまうことがよくありました。
そこで人々は、自分の牛だとわかるように、背中に焼き印を押したのです。
この焼き印は、「これは誰のものか」を示すための目印でした。
つまり、当時のブランドの役割は、所有を識別することだったのです。
やがて時代が進むと、職人たちは自分の作った製品に印をつけるようになります。
それは単なる所有の証ではなく、「誰が作ったのか」を示すものへと変わっていきました。
そして、その印は次第にこうした意味を持ち始めます。
「この人が作ったものなら、安心できる」
ブランドはここで、「識別」から「信頼」へと、その役割を広げていったのです。
*古ノルド語:8〜14世紀ごろに北欧で使われていた言語。現在のアイスランド語などのルーツとされる。
大量生産が生んだ、新しい問題
前回お話ししたように、産業革命によって、工場で大量にモノが作られるようになると、大きな問題が生まれました。
それは、「誰が作ったのかわからない」ということです。
職人が一つひとつ作っていた時代には、その人の名前や評判が、そのまま品質の証でした。
しかし、大量生産の時代になると、商品は工場から次々と生まれ、作り手の顔は見えなくなっていきます。
見た目だけでは、違いがわからない。
品質も、使ってみるまでわからない。
そんな時代に、人々はこう考えるようになります。
「この商品は、本当に信頼できるの?」
ブランドは「戦略」に
みんなの憧れ!王室御用達!
「この商品は、本当に信頼できるの?」
という問いに対して、ひとつの答えを示した人物がいました。
18世紀のイギリスで活躍した陶芸家、ジョサイア・ウェッジウッドです。
彼は、王室に自らの陶器を売り込むことに成功し、1765年、シャーロット王妃に茶器を納める機会を得ました。
そして彼は、その陶器をこう名付けます。
「クイーンズウェア(女王の陶器)」
さらに、その事実を新聞広告で広く伝えたのです。…やり手ですね!

「王妃が使っているものなら、きっと良いものに違いない」
そんな憧れが、人々の中に生まれていきました。
これは、現代でいうインフルエンサーのような役割です。
こんなに昔からインフルエンサーがいたとは驚き。
さらに彼は、当時としては画期的だった「配送料無料」や「返品無料」といったサービスも導入します。
もし気に入らなければ返品できる。余計な負担なく手に入れられる。
こうした仕組みは、人々の購入への不安をやわらげ、「試してみようかな」という安心感へと変わっていきました。
信頼は、品質だけでつくられるものではありません。
人が感じる安心や、手に入れたときの期待感。
そうした「感情」が、選ぶ理由になっていったのです。
誰が使っているのか。どんなイメージを持つのか。
それが商品の価値を大きく左右する。
ブランドはここで、「これは誰のものか」という単なる「識別」から一歩進み、「選ばれる理由をつくる仕組み」へと変わり始めます。
「何を売るか」ではなく、「どう感じてもらうか」という視点にシフトしていったのです。
楽しそうな風景。
豊かな暮らし。
理想的なライフスタイル。
広告には、商品そのものではなく、それを手にしたときに得られる体験や気分が描かれるようになりました。
ブランドはここで、モノの価値を伝えるものから、イメージを通して価値を生み出すものへと進化していったのです。
名前を刻むという覚悟
こうしてブランドが感情に働きかけるものへと広がっていく中で、もうひとつ重要な変化が生まれます。
それが、名前に価値を持たせるという考え方です。
イタリアのファッションブランド、Gucci(グッチ)。
その創業者であるグッチオ・グッチは、商品に自らの名前を刻むという選択をしました。
それは「この品質に、私は責任を持つ」
という、強い意思表示でした。
もともとブランドは、「誰が作ったか」を示す識別の役割を持っていました。
しかしグッチはそこから一歩踏み込み、「名前=品質保証」という関係をつくり出したのです。
自分の名前を掲げるということは、逃げ場をなくすことでもあります。
もし品質に問題があれば、その評価はすべて自分に返ってくる。自分の名声がかかっているわけですね。
だからこそ、その名前は「信頼の証」として機能するようになります。
消費者は、ブランド名を確認することで、その製品がどのような品質を持っているのかを判断できるようになりました。
それは、見た目ではわからない価値を、名前というかたちで見えるようにした、とも言えます。
こうしてブランドは、感情に訴えるだけでなく、信頼に対して責任を持つ存在へと進化していきました。
五感でわかるブランドの完成形
ブランドはやがて、見てわかるだけでなく、感じてわかる存在へと進化していきます。
その象徴ともいえるのが、The Coca-Cola Companyです。
コカ・コーラは、単に商品を売るのではなく、ブランドそのものを記号として設計しました。
たとえば、あの独特な曲線を持つボトル。
1960年、このボトルの形そのものが商標として登録されています。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Coca-Cola_ad_1924-10.png
(Public Domain)
それは、ラベルが見えなくても、暗闇で触れただけでも、さらには割れた破片の一部であっても、「これはコカ・コーラだ」とわかるように設計されているのです。
ブランドの役割である「識別」は、ここで極限まで突き詰められました。
さらにコカ・コーラは、形だけでなく、ロゴの書体、赤という色、広告のトーン、そして「さわやかさ」というイメージに至るまで、すべてを一貫して設計し続けてきました。
その象徴的な例のひとつが、サンタクロースのイメージです。
現在広く知られている「赤い服のサンタクロース」は、コカ・コーラの広告によって世界中に広まり、定着したと言われています。
視覚だけでなく、触覚、そして記憶や感情にまで働きかけることで、ブランドは体験として人々の中に刻まれていきます。
こうしてコカ・コーラは、名前を読まなくても伝わる、説明しなくても理解される、ひとつの記号としてのブランドを完成させたのです。
それは、見えない価値を、誰にでもわかるかたちにしたデザインの到達点とも言えるでしょう。
企業アイデンティティ(CI)の誕生
ブランドは、企業そのものに
ここまで見てきたように、ブランドは感情に働きかけ、信頼を背負い、記号として認識される存在へと進化していきました。
そして次に起きたのが、そのブランドを「企業全体で統一しよう」という動きです。
それまでのブランドは、商品ごとに個別に作られることが多く、見た目やメッセージにばらつきがあることも少なくありませんでした。
しかし、企業の規模が大きくなり、さまざまな商品やサービスを展開するようになると、「どれも同じ会社のものだ」と一目で伝わる必要が出てきます。
そこで生まれたのが、企業アイデンティティ(CI=Corporate Identity)という考え方です。
ロゴ、色、書体、デザインのルール。
さらには、企業としてどんな価値を大切にしているのかという考え方まで、それらを統一することで、企業そのものの人格をつくり上げていく。
ブランドは、単なる商品やサービスの印ではなく、企業全体を表す存在へと変わっていきました。
どの商品を見ても、その会社らしさが伝わる。
言葉がなくても、「あの会社だ」とわかる。
そんな一貫性が、信頼を積み重ねていくのです。
こうしてブランドは、個別の戦略から、企業そのものを形づくる基盤へと進化していきました。
ブランドを育てる組織
ブランドが企業そのものを表す存在へと変わると、それをどう守り、どう育てていくのかが重要になってきます。
どれだけ優れたロゴやデザインをつくっても、使い方がバラバラであれば、その価値は十分に伝わりません。
広告、パッケージ、店舗、サービス。あらゆる接点で、一貫した体験を届ける必要があります。
そこで登場したのが、ブランドを「仕組みとして管理する」という考え方です。

その代表例が、アメリカの企業、Procter & Gamble(P&G)です。
1931年、同社のニール・H・マッケロイは、一つひとつのブランドに責任者を置く「ブランド・マン」という仕組みを提案しました。
これは、現在のプロダクトマネージャーの原型とも言われています。
それぞれのブランドに対して、誰が責任を持つのかを明確にし、広告から販売までを一貫して管理する。
この仕組みによって、ブランドは単なるデザインではなく、企業の中で継続的に育てていく資産となりました。
ブランドは、つくって終わりではありません。
時間をかけて守り、育てていくものです。
こうしてブランドは、個人のセンスやアイデアだけに頼るものではなく、組織として戦略的に運用される存在へと進化していきました。
おわりに
ブランドとは、企業が消費者に対して交わす「約束」です。
どんな価値を提供するのか。
どんな体験を届けるのか。
その一貫したメッセージが、信頼として積み重なっていきます。
そしてその約束は、ロゴや見た目だけでなく、あらゆる体験を通して伝えられていきます。
では、その約束をどうすれば伝わるかたちにできるのでしょうか。
次回は、「シンプルが流行っている理由」を手がかりに、UI/UXやWebデザインの視点から考えていきましょう!





