
「生成AIの導入はリスクが高い」や「ChatGPT以外の生成AIをよく知らない」 など、生成AIに対して不安や疑問を抱いている方は少なくないでしょう。しかし一方で、「生成AIの導入により人件費を〇〇%削減」のようなニュースを耳にする機会が着実に増えています。
つまり、生成AIを使わないことの方が企業のリスクになりつつあるのです。
そこで本記事では、大企業で導入が進んでいる生成AIの活用事例を紹介しながら、生成AIの魅力について解説します。
目次
生成AIとは
新たに企業のDX推進担当になった方の中には、「生成AIをよく知らない」という方もいるでしょう。そもそも生成AIとは一体何なのでしょうか。
生成AIは賢いコンピュータ
生成AIとは、私たち人間が入力したデータを基に、文章や画像、音楽などを自動的に生み出す技術です。たとえば、売上・勤怠データを収集したり、キャンペーンのロゴデザインを作成したりできます。
簡単に言うと、AIが学習した大量のデータを活用し、生産性を向上できる賢いコンピュータです。
また、ChatGPTはその生成AIの一つで、アメリカ企業のOpenAIが開発した人と会話することを得意としています。私たちが質問すると、その質問に対してわかりやすく答えたり、アドバイスをしたりと、自然な会話で答えてくれるのが特徴です。
大手企業7社の生成AI活用事例
実際に生成AIはどのように使われているのでしょうか。大手企業7社の活用事例を紹介します。
パナソニックホールディングス株式会社
パナソニックグループのパナソニックコネクト株式会社は、2023年2月からChatGPTをベースとしたAIアシスタントサービス「ConnectAI」を国内の全社員に展開しています。同社が「ConnectAI」を導入した目的は、業務効率の改善や社員のAIスキルアップです。
経営トップから現場までこうした文化を浸透させたことで、18.6万時間もの労働時間の削減に成功しました。社員へのヒアリング結果によると、生成AIの活用で1回あたり20分の時短につながったとのことです。
また、同社はこの取り組みにより、他のAIを利用するリスク(情報漏洩や著作権侵害)は一度も発生していないと公表しています。

画像引用元:パナソニックホールディングス株式会社ホームページ「パナソニックコネクト生成AI導入1年の実績と今後の活用構想」
株式会社ベネッセホールディングス
株式会社ベネッセホールディングスは、DX戦略の一環として2023年4月に社内AIチャット「Benesseチャット」を導入し、企画の重要性から社員が自由に使える環境を整備しました。
同社は、この「Benesseチャット」を使って
- 社員自らが問題を発見・解決するマインドセット
- 顧客とのコミュニケーション
- ライティング業務の自動化
- 画像作成の自動化
- PDCAの高速化
など、生産性向上に取り組んでいます。
また、2023年7月には、小学生向けの生成AIサービス「自由研究お助けAI」もリリースしました。子どもの利用に配慮した安全な設計で、考える力を養う仕組みになっているとのことです。

画像引用元:経済産業省PDF「生成AIの活用事例のご紹介〜株式会社ベネッセホールディングス」
日本コカ・コーラ株式会社
日本コカ・コーラ株式会社は2023年12月に画像生成ツール「Create Real Magic」を使って「世界に一つだけ、オリジナルのクリスマスカード」が作れるWebサイトを公開しました。これは、大規模言語モデルの「GPT-4」と画像生成AI「DALL-E」を組み合わせた生成AIプラットフォームです。
ユーザーは、アカウントを作成してテーマやシーン、スタイルを選ぶまたは文章で指示すると、クリスマスカードを作成できます。「Create Real Magic」は、コカ・コーラの過去の広告やキャンペーンのデータを学習しているのも特徴です。
情報引用元:日本コカ・コーラ株式会社ホームページ
鹿島建設株式会社
鹿島建設株式会社は2023年8月、自社専用の対話型AI「Kajima ChatAI」を開発し、約2万人いるグループ会社の従業員向けに運用を始めたことを発表しました。
同社は当初、業務にChatGPTを使うことは禁止でした。それは、従業員が入力した質問情報が第三者の回答として漏えいするリスクを懸念していたからです。
そこで、日本マイクロソフト株式会社のサービス(Azure OpenAI Service)を活用して、外部に情報が漏洩しない安全な仕組みを確立しました。
これにより、業務プロセスやビジネスモデルの刷新など、全社的にDXを浸透させることを目指しています。

画像引用元:鹿島建設株式会社ホームページ
三菱UFJ銀行
三菱UFJ銀行は幅広い業務に生成AIを活用し始めました。
実際、銀行の業務は融資のための稟議書類などさまざまな場面において手続きが膨大で、行員一人ひとりの作業負担が大きい状態です。そのため、生成AIを活用し、業務フローの見直しや行員の生産性向上を図っています。
また、生成AIをどう活用するかを学ぶ研修を行うなど、社内での人材育成も強化しているとのことです。その他、2023年11月から国内の全社員に向けて生成AIと各種システムを連携できるような改修も行うなど、会社を上げてAI活用の浸透に努めています。
情報引用元:日刊工業新聞2024年6月3日配信記事より
株式会社セブン&アイホールディングス
株式会社セブン&アイホールディングスは生成AIによりDXを加速させる取り組みを進めています。
具体的には、
- 汎用業務(マーケティングへの活用・社内業務の効率化・データ分析)
- 専門業務(カスタマーサービスの効率化)
- 新しい価値創造(各店舗へのサポート・顧客に与える新たな体験)
の各場面で生成AIの活用を掲げています。
たとえば、マーケティングにおいてはそのプロセス(計画→企画→制作→登録→公開→検証)のうち、企画の3割と制作の半分以上を生成AIに任せているとのことです。
また、現場のマネージャー向けに次のような活用例も推奨しています。
「〇〇売り場の売上が前年比で◯%減」という現状から「〇〇売り場が不振な原因を教えてください」と生成AIに尋ねます。もし、生成AIが「類似する他店と比べて〇〇の客単価が低いことが考えられる」のように回答したら、その対策について質問し、改善策を試行する運びです。
同社の生成AIは購買履歴データなども学習できる仕組みになっているので、現実的な回答が得られることやデータ分析に慣れていない社員でも改善に向けた取り組みが実行しやすい環境と言えます。
この他、2024年6月には新卒社員に生成AIの研修を実施するなど、全社的に生成AIの活用を促しています。また、2024年9月に傘下のセブン-イレブン・ジャパンが店内でのドーナツ販売を再開しましたが、もしかするとそれは生成AIのアイデアかもしれませんね(あくまで推測ですが)。
情報引用元:
ダイヤモンド・チェーンストアオンライン2024年5月2日配信記事
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社は同社グループのトップである孫正義氏が、生成AIに注力していることはさまざまなメディアで紹介されています。そうした背景もあり、同社の生成AI活用は他社よりも進んでいると言えます。
たとえば、ChatGPTをどうやって仕事に役立てるのか?という企業に向けて、LLM(大規模言語モデル)とRAG(データを検索して答えを作る仕組み)の課題(AIが正確に答えを出すためには、データをきちんと整理することが大切だが、その仕組みづくりは難易度が高い)を解決できるデータの構造化を提案しています。
同社はもともとシステム構築を得意としているので、社内での生成AI活用に限らず他社の生成AI活用のサポートも行っています。
情報引用元:ソフトバンク株式会社ホームページ
生成AIの面白い活用事例
ご紹介した7社のほか、生成AIを活用して面白い映像を制作した企業もあります。生成AIの活用方法に迷っている企業は、広報戦略のヒントになるかもしれません。
殺虫剤のキンチョール
KINCHO(大日本除虫菊株式会社)は、「昨今の若者は殺虫剤を使うことがあまりない」という現状から若者向けにキンチョールの認知度を高めるため、生成AIを活用してユニークなテレビCMを制作しました。
CMの映像素材は、主に画像生成AIを使ってビジュアルイメージを膨らませた後、人間の技術で改善しながら完成させたとのことです。近未来の背景にポップ感、ストーリー性も含まれており、CM公開時は面白いと話題になりました。
また、作業用BGMとして60分動画もYouTubeで公開されており、広報戦略としては成功と言えるのではないでしょうか。

画像引用元:大日本除虫菊株式会社ホームページ
中小企業こそ生成AIで成長のチャンス
大企業で生成AIの活用が広がる一方、中小企業における生成AIの活用はあまり進んでいないのが現状です。でもだからこそ、生成AIの活用で競合をリードし、会社が成長するチャンスでもあります。
中小企業の生成AI活用状況
2023年5月、東京商工会議所が実施した生成AIに関するリサーチによると、中小企業でChatGPTをはじめとする生成AIを活用している企業は6%未満でした。そして約65%の企業が今後も生成AIを活用する予定はないと答えていたのです。 先進各国で少子高齢化が最も進む日本は、深刻な人手不足などからDX推進が不可欠の中、このリサーチ結果は衝撃的と言えます。

画像引用元:東京商工会議所「中小企業のための生成AI活用入門ガイド」
中小企業こそ生成AIを導入すべき?
中小企業でも生成AIに対して前向きな企業は存在します。
アプリ開発などDXに積極的な新潟県加茂市の株式会社K-walkは、自社で生成AI「Chimaki(チマキ)」を開発し、すでに地元の役所や商工会議所、新潟大学などが試験導入しています。
同社の生成AIは、インターネットに接続しなくても使用できるため、最初から情報漏えいや従量課金の課題を解決しているのが特徴です。

株式会社K-walkは、取締役自身がエンジニアだからこうした開発に成功したと思われがちです。しかし、同社のような地方創生を後押しする企業が存在するからこそ、中小企業は生成AIを活用することでDXが浸透し、会社の持続的な成長につながります。
画像引用元:にいがた経済新聞2024年8月12日配信記事
情報引用元:株式会社K-walkホームページ
生成AIで改善できること
生成AIを自社の業務に活用する場合、具体的にどのような業務改善につながるのでしょうか。各カテゴリー別に生成AIができることを解説します。
データ収集・分析や資料の要約を時短
AIは、データベースやネットに公開されている膨大な情報を瞬時に収集し、必要なデータを提供してくれます。そのため、市場動向や競合分析、最新トレンドなどのリサーチに有効です。
また、長文のレポートや論文を数秒から数分で要約してくれるので内容確認の時間を短縮できます。翻訳も可能なので、海外でのビジネスを展開しやすくなると言えます。
スムーズな企画立案や迅速な意思決定
AIは過去の成功事例や市場トレンドを基に、新しい企画やキャンペーンのアイデアを提案してくれます。また、顧客からのフィードバックや購買データをリアルタイムで分析し、企画の改善点も考えてくれるので、迅速な修正による企画のブラッシュアップが可能です。
さらに、企画書や稟議書、関係各所へのメールなど文書の作成も自動化できるため、制作や販売に向けて迅速な意思決定が可能になります。
デザイン制作やシステム開発もできる
生成AIを活用すると、建築に関わる設計図やUI・UXを意識したWebサイトのデザインの作成を自動化できます。もちろん、AIのアイデアを顧客のニーズに合わせて手を加える必要はありますが、作業時間が大幅に短縮できることは間違いありません。
また、AIによるソフトウェア開発も可能です。たとえば、基本的なフレームワークやコードを生成し、デバック(コードのバグを自動検出)による修正も提案してくれるので、各段階の作業効率は大幅に改善します。
この他、チャットボットによる社内資料やデータのスムーズな検索、業務に関する質問対応など、生成AIの活用は生産性の向上に大きく貢献すると言えます。
まとめ
いま多くの企業が人材不足の中、DX推進が求められています。日々の業務の自動化・効率化はもちろん、新しいビジネスの創出による持続的な成長に向けて生成AIの活用は欠かせません。この機会にぜひ生成AIを導入し、企業全体の生産性を向上させましょう。
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