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レジリエンスとは?
心は本当に鍛えられるのか?

投稿日
2022.12.01
更新日
2023.06.15
レジリエンスとは?心は本当に鍛えられるのか?

ビジネス環境が目まぐるしく変化し、それにともなって企業の組織構造や人員、業務プロセスも劇的に変化することが当たり前になってきました。ビジネスドメインの変更は、人材配置の転換や人員整理へと直結し、従業員に大きなストレスをもたらします。

従業員一人ひとりが、ビジネスの変化を前向きに受け止め、困難な課題や障壁に力強く立ち向かうことができれば、きっと、企業は新たな成長に向かうことができます。

そのために、なにをすべきなのでしょうか?

企業とメンタルヘルスの現状

経営環境の変化とともに、個人と仕事の関係も大きく様変わりしてきました。一部の専門職を除けば、昨日までの仕事と、今日、明日からの仕事ががらりと変わってしまうことも珍しくありません。 専門職や技術職にあっては、取り組んできた仕事そのものが会社から無くなり、新しい職場を探すようになるかもしれません。
安定した就業環境の喪失は、従業員に大きなストレスをもたらします。

ストレスチェック制度と効果

従業員のメンタルヘルス不調を改善するための試みの一つにストレスチェック制度があります。

厚生労働省から「職業性ストレス簡易調査票(57項目) 」が公開されており、自身が受けている精神的ストレスについて簡単にチェックすることができます。このストレスチェック制度の効果について、アンケートを行った調査レポート※1があります。ストレスチェック受検の効果についての質問への回答で一番多かったのは「自身のストレスを意識するようになった」50.2%であり、次が「(効果は)特になし」38.7%となっており、メンタルヘルスの改善に直接結びつくような回答は見いだすことができません。

参考:「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業報告書」みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社(PDF)

職業性ストレスと精神障害の現状

そのレポート結果と符合するように、仕事によるストレスが原因で発症する精神障害に関する労災請求などを取りまとめた厚生労働省の調査※2では、平成29年度から令和3年度にいたる5年間の労災請求等の件数推移が上昇傾向にあることが明らかになりました。

ストレスチェックによって自身が気づくことのなかった高ストレス状態を認識したとしても、あるいは職場の環境や就労時間が多少改善されたとしても、 精神的な健康を回復できない人は少なくありません。

その一方で、さまざまな困難や逆境に屈することなく、たくましく生き抜き成功をつかみ取る人に私たちは時折出会うことがあります。ストレスに圧しつぶされてしまう人と、ストレスを跳ね返す人の違いは一体どこにあるのでしょうか?

参考:令和3年度「過労死等の労災補償状況」 厚生労働省(PDF)

※1:「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業報告書」みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社(PDF)
※2:令和3年度「過労死等の労災補償状況」 厚生労働省(PDF)

「下町ロケット」と心の可能性

TVドラマにもなった「下町ロケット」や「半沢直樹シリーズ」などで知られる池井戸潤の作品には、さまざまな困難を跳ね除け力強く前進する主人公の姿が描かれています。小説を読んだり、ドラマを見る私たちは、そのポジティブでたくましい力に魅せられ感化されて、自分の中にも力が湧いてくるのを感じたりします。

病の心理学からポジティブ心理学へ

逆境や壁を乗り越え、勝利へと突き進む姿を見ると、勇気ややる気が湧いてくるのはなぜでしょうか?私たちの心や精神のありようを研究する心理学や精神医学は、かつて健康ではない状態(病理)を対象に研究を重ねてきました。そこでは、健康な人をより健康にする方法や、落ち込んだ気持ちを回復させる方法などについては、ほとんど研究されることがありませんでした。

1998年頃から2000年代初頭にかけて、主体性や創造性、自己実現といった人間の肯定的側面に焦点を当て、精神疾患を治すことよりも、通常の人生をより充実したものにするための研究がなされるようになりました。

「どうすればもっと幸福になれるか」を研究し実践するポジティブ心理学の登場です。

レジリエンスとは?

ポジティブ心理学の研究成果として 、同じ環境に置かれた複数の個人の適応の違いについての洞察があります。ある人たちは、その状況に非常に苦しんでおり、もう一方の人たちは困難を感じることなく適応できている。この両者の違いについて科学的な考察を試み、一つの結論を導き出しました。つまり、困難を感じることなく適応できている人たちの共通の特徴は、社交的であるということでした。

さらに、震災や近親者の死などの不幸な出来事に遭い、心が折れ立ち直ることができない人たちと、一旦は落胆してもめげることなく早々に立ち直ることができる人たちの違いは何かについても研究が進められました。

逆境や困難に遭ってもバネのように回復する力を持つレジリエンス(resilience)の高い人と、そうでない人の差は何か?

そこには、社交的である、楽観的であるというポジティブな感情だけではない、さまざまな要因が介在していることが突き止められました。

ポジティブ心理学はそれらを精査し、マニュアル化することに成功しています。そして、「レジリエンスはトレーニングによって高めていくことができるのか?」という問いにも明確な答えをもたらしました。精神疾患の苦しみを取り除く方法とは別のアプローチによって、幸せな(気持ちよく・夢中になり・意味ある)人生を手にすることができる。レジリエンスはトレーニングによって強化することができ、その具体的な方法も明らかにしています。

心を鍛える「レジリエンス・トレーニング」

レジリエンス・トレーニングとは、実際どのようなもので、誰でも習得できるものなのでしょうか?レジリエンスは人間に元々備わっている特性(コンピテンシー)であることが明らかになっています。

また、レジリエンスの高い人は、思考や行動、振る舞いなどがある特徴的なパターンを示すことも解明されています。レジリエンスは学習可能であり、適切な方法に基づき集中的に行うことで能力を高める。
それがレジリエンス・トレーニングということになります。

6つのコンピテンシー

レジリエンス・コンピテンシーは、その特性に応じて6つに分類されています。
これらのコンピテンシーを、トレーニングによってそれぞれ強化していくことで、自身のレジリエンスを高めていくことになります。

1.自己の気づき

自分の思考、感情、行動、生理的反応に注意を払う能力

2.自己コントロール

望ましい結果を得るよう自分の思考、感情、行動、生理的状態を変化させられる能力

3.現実的楽観性

ポジティブなことに気づき、期待し、自力でコントロールできるものにフォーカスし、目的を持った行動が起こせる能力

4.精神的柔軟性

状況を多角的に見て、創造的かつ柔軟に考えられる能力

5.強みとしての徳性(キャラクター・ストレングス)

最高の強みを活用し自分の真の能力を最大限に発揮し、困難に打ち勝ち、自分の価値観に合った人生を創造する能力

6.関係性の力

強い信頼関係を築き、維持する能力

参考:宇野カオリ著 逆境・試練を乗り越える! 「レジリエンス・トレーニング」入門 / “RESILIENCE SKILL SET”,POSITIVE PSYCHOLOGY CENTER

7つのスキル

レジリエンス・コンピテンシーを効果的に強化するための7つのスキルを紹介します。

1.自分をABC(ATC)モデルで分析する

状況に対する自身の向き合い方をActivating Events (出来事・Beliefs/Thought(思考)・Consequence(結果)モデルを使い意識化する。

2.「思考のワナ」から 脱出 する

陥りやすいネガティブな思考パターンをあきらかにする。

3.氷山思考を見つける

信念や価値観、偏見など自身の思考の癖を意識化する。

4.脳の色眼鏡を外す

状況を把握する際の自身の思考傾向(色眼鏡)を顕在化する。

5.広い視野で眺める

大局観を持ち状況を多角的にとらえる。

6.エネルギーマネジメント

心を静め、思考をリセットする。

7.リアルタイムレジリエンス

ネガティブな感情・思考を払いのけ窮地を脱する。

これらの科学的エビデンスに基づくトレーニングプログラムを活用することで、 認知スキル(学習能力や問題解決能力など)や社会的スキル(健全な対人関係の構築など)を養い、 幸せ(Well-being)な感覚とともに、より積極的に仕事に向き合うことが可能になります。

まとめ

  • ビジネス環境の変化にともない、従業員のストレスが高まっている。
  • ストレスチェック制度は、メンタルヘルスの直接的な向上には大きく影響しない。
  • ポジティブ心理学の研究成果が着実にメンタルヘルスの向上に寄与している。
  • レジリエンスは後天的な努力によって、その能力を高めることができる。
  • レジリエンス・トレーニングの科学的プログラムが開発され、多くの期待が寄せられている。

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