企業の人事は経営に直結する部分があるため、社内におけるさまざまな課題を解決していく必要があります。従業員の生産性や離職率に関わるメンタルヘルスの改善も課題の一つです。
この記事では、GoogleやAppleなどの有名企業も推奨する従業員のストレス軽減により企業の生産性を高めるマインドフルネス瞑想について、その効果や企業事例を交えてご紹介します。
目次
組織の変革に役立つマインドフルネスとは?
世界的に多くの企業が注目するマインドフルネスですが、その言葉を聞いたことがない従業員にとっては怪しいイメージを持つ場合があります。そこで、まずはマインドフルネスとは何かを知るところから始めましょう。
マインドフルネスとは何か?
マインドフルネスとは過去や未来ではなく「現在」に注意を払い、今この瞬間に起こっている出来事を意識することです。心や身体の感覚・思考・感情を認識し、とりわけ何かを判断することなく、ありのままの状況を受け入れます。
つまり、意図的に今起こっていることを肯定的な態度で受け入れるようにするのです。そうすると、ストレスや不安が軽減し、より意識的で幸福度の高い生活を送ることができると言われています。
マインドフルネスは瞑想や呼吸法・ヨガなどの実践を通して行われるのが一般的です。これらは、身体の感覚を認識し、気づきを増やすことで、心を落ち着かせることを目的としています。
そのため、ストレスや不安・うつ病・痛みの管理など、さまざまな状況で有効なツールとして知られています。
マインドフルネスがもたらす効果
マインドフルネスを実践するとフロー状態になりやすいのが特徴です。フロー状態とは自分自身の行動に対し、完全に没頭して時間の感覚が失われるほどに集中していることを言います。そのため、次のような効果が期待できます。
集中力が高まる
フロー状態に入ると、周りのことが全く気にならなくなり、自分が行っていることに「全集中」します。私たち人間はデータ入力やデザイン作成など 業務中であってもテレビのニュースや同僚の会話が気になったり、お昼ごはんは何を食べようかと考えたりするものです。
しかし、フロー状態ではそういった雑念が消えます。そのため、作業効率が大幅に良くなると言えます。
想像力が身につく
フロー状態では対象となる物事への集中力が半端ないため、新しいアイデアや発想の湧く可能性が非常に高いと言えます。また集中力を高めることで想像力が身につくので、仕事に対してより良い成果を生み出すことが期待できます。
ストレスが軽減される
フロー状態に入ると時間の感覚が失われ周りのことを気にしなくなるため、ストレスも感じにくくなり、リラックス効果があるとされています。社内でのストレス軽減はメンタルヘルスの促進につながるので非常に効果的です。
自信が持てる
集中力が高まり想像力が豊かになると、「私ってすごい!」と思うようになるなど、自信が持てるようになります。何事も自信を持って取り組めるようになれば当然、生産性は上がるので、マインドフルネスの実践はフロー状態に入るための有効な手段と言えます。
マインドフルネスのリスクと注意点
マインドフルネスはいいこと尽くしのように聞こえますが、デメリットはないのでしょうか。ここでは、マインドフルネスのリスクと注意点についてお伝えします。
目的をきちんと伝える
もしかすると、マインドフルネスを知らない従業員はネガティブなイメージを持つかもしれません。実際、従業員の理解を得ずにマインドフルネスを強制してしまうと、それ自体がストレスとなってしまいます。
しかし、それでは本末転倒なので、企業内に取り入れる場合はマインドフルネスの目的とメリットを明確に伝えることが大切です。
従業員のプライバシーを守る
マインドフルネスは、自己認識や自己受容力を高めるために個人的な問題に触れる場合があります。そのため、企業の人事としてはマインドフルネスの効果を測定・管理するとき、従業員のプライバシーをきちんと守ることが大切です。
そうすることで、従業員は安心してマインドフルネスを実践し、結果を正しく報告してくれるでしょう。
専門家を頼る
マインドフルネスは時としてネガティブな感情がうごめく恐れがあります。たとえば、瞑想中にトラウマとなっている出来事がフラッシュバックするなど。
そのため、専門家と連携して精神的な衛生を保ち、不安や疑問のないように適切な実践方法とフィードバックを行う体制が必要不可欠です。
このように、マインドフルネスの導入は、リスクや注意点を踏まえた上で推奨することが大切です。その結果、従業員は企業としてマインドフルネスを受け入れやすくなるので、彼(彼女)らが自発的に参加する環境も整うでしょう。
マインドフルネスの具体的な実践方法
それでは実際にマインドフルネスを実践してみましょう。マインドフルネスはさまざまな種類がありますが、本記事では瞑想をはじめとした身近に実践できる5つの方法をご紹介します。
瞑想
マインドフルネスの中で最も注目されているのが瞑想です。
瞑想は座って目を閉じ、深呼吸をしてから、自分自身に集中します。気が散りやすい場合は、指先や足先など、自分の身体の一部に集中します。
呼吸を感じながら自分の心に起こっていることを観察し、その場・その瞬間を感じることに集中します。呼吸が浅いと感じたら、深く吸い込んで、ゆっくりと息を吐いてみてください。
瞑想は数分から数十分の時間で実践するのが一般的です。企業では朝礼時や休憩時、指定の作業前などに時間をつくって実践していることがよく見受けられます。
食べものにフォーカス
マインドフルネスは毎日の食事など、日常生活の中でも簡単に取り入れることが可能です。
たとえば、食べものを口に入れる前に料理を目でしっかりと見て、味や香りを感じます。とりわけ食べものを噛むときは、それがどのように感じるかを意識します。
また食べる速度をゆっくりにすると、料理をしっかりと味わえるので美味しさが増し、精神的な満足度が上がります。食事は単に空腹を満たすだけの行為ではなく、ちょっとした意識で幸せな気分になれるのです。
散歩
歩きながら周囲の景色を注意深く観察することで、頭の中をクリアにする方法です。また歩き方にも注意し、自分が「歩いている」ということに意識を向けます。
鳥の鳴き声や風の音、匂いなどを感じることが効果的なため、緑のある場所での散歩がオススメです。
トレーニング
トレーニングと聞くと、難しそうなイメージがありますが、誰でも簡単にできます。
ヨガのウォーミングアップのように、手首を回す・頭を左右に傾ける・肩を回すなど、自分の身体に意識を向けます。またそのとき、身体の感覚がどんなものかを意識することで、脳がスッキリした状態になります。
呼吸
瞑想と同じく呼吸法も注目度が高い方法です。
まず深呼吸して、身体全体をリラックスさせます。鼻からゆっくりと息を吸い込み、口からゆっくりと息を吐き、吐く息は吸う息よりも長くしてください。
また呼吸に集中し、吸う息と吐く息の感覚を感じるのです。息が流れる感覚に意識を向け、そこに集中することで、心を落ち着かせることができます。
深呼吸だけでなく腹式呼吸も効果的です。吸い込む息は、腹が膨らむように深く吸い込み、吐く息は、お腹が引っ込むようにゆっくりと吐き出します。
心が落ち着くと脳は冷静状態を保ち、プレッシャーやネガティブな感情から解放されるので、自然とストレスが軽減されます。
導入事例から学ぶマインドフルネス
ヤフー株式会社
検索エンジンのサイトを運営するヤフー株式会社(以下ヤフー)は、2016年からオフィスのフリースペースでマインドフルネスの体験会を行い、希望する社員には週1回60分で合計7週間の専門プログラムも実施してきました。
そのプログラムはメタ認知トレーニングと呼ばれ、メタ認知とは感情や記憶、思考を客観的に捉えて、行動につなげることです。
ヤフーではマインドフルネスを導入したことにより、
- 不要な感情に振り回される時間が減った
- より本質的な課題が見れるようになった
- 組織内で感情による対立がなくなった
などのコメントが社員から寄せられたとのこと。
仕事は作業をこなすスキルだけでなく、取引先の担当者やプロジェクトメンバーなど、関わる人とのコミュニケーションも非常に重要です。そのため、社員一人ひとりが感情や思考をクリアにしてベストな行動をとることは、企業の生産性向上につながります。
情報引用元:Harvard Business Review「ヤフーのマインドフルネス・プログラム」
おわりに〜企業に求められる心理的安全性
マインドフルネスは心理的安全性の創出も期待できます。心理的安全性とは職場やチームにおいてメンバーが自分自身を自由に表現できる状態です。
具体的にいうと、意見を言い合ったり、失敗を認め合ったりと、他者から攻撃を受けることなく自分らしく働ける状態のことを指します。Googleでも心理的安全性を重視し、それが自社のチームパフォーマンスに大きな役割を果たしていることを認識しています。
企業が組織の風土や職場の人間関係をより良くするためにも、マインドフルネスの導入は有効な選択肢の一つと言えます。