
コロナ禍によって加速しつつあるテレワークは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として政府が各企業に導入を推奨しています。しかし、テレワークによってWebハラスメントが発生していることも事実です。
こうしたトラブルはあまり知られていないのですが、「オンラインだから仕方ない」は通用しません。この記事では、Webハラスメントを防止する取り組みを知り、オンラインで重要なビジネスマナーが身につく方法をご紹介します。
テレワークで起こるトラブル「Webハラスメント」とは?

Webハラスメントとは、オンライン上で他人を不快にさせたり、怖がらせたりして名誉や心を傷つける言葉・行為のことです。
Webハラスメントは厚労省も認定?
Webハラスメントはとりわけコロナ禍以降、テレワークの増加に伴いリモートハラスメント(以下リモハラ)と表現されることも多くなりました。
リモハラはオンラインであるがゆえに起こりがちなトラブルです。そのため、パワハラやセクハラなど、「日頃からハラスメントに気をつけているから大丈夫」と思っていても、意図せずリモハラをしてしまうことが珍しくありません。
厚生労働省は2020年の厚生労働省告示第5号・同第6号でパワハラ・セクハラ防止の指針を示しております。オンライン上の突発的・偶発的な出来事でも、これらの指針に当てはまればハラスメントと認定されてしまうのです。
参考:2020年の厚生労働省告示第5号(PDF) / 2020年の厚生労働省告示第6号(PDF)
よくあるWebハラスメントの事例
それでは、実際にどのようなことをするとWebハラスメントになるのでしょうか。具体的な事例を交えて解説します。
Webハラスメントは主に次のような行為です。
- 特定の人に対して、悪口や嫌がらせによりその人の評判や名誉を傷つける
- 倫理的に問題のある内容や性的な画像を送信する
- 公私混同やプライバシーの侵害
上記の中でも、公私混同やプライバシーの侵害はテレワークにおいて発生しがちです。
たとえば、
- Zoomのブレイクアウトルーム(全体ではなく二者間や三者間など個別の会話)で業務に必要のない(家族やパートナーのことなど)質問をする
- 部屋の様子が見えるように常にカメラをオンにするように指示する
- オンライン飲み会への参加をしつこく誘う
・・・などの行為は公私混同やプライバシーの侵害の典型と言えます。
Webハラスメントはなぜ起きるのか?
Webハラスメントはなぜ起きるのでしょうか。
インターネット上の誹謗中傷については、匿名だからという安易な考えで言いたいことがあるけど言えないうっぷんを晴らしているのかも知れません。もちろん、そうした身勝手な理由での言動はNGですが、これは一社会人として人間性の問題と言えます。
一方、テレワークにおける公私混同やプライバシーの侵害は、対面で直接的なコミュニケーションがとれるオフィスでは起きにくい事象であることが影響しています。なぜなら、異性と二人だけの環境や普段は知り得ない部屋の様子が自然と見えるといった状況が生まれるからです。
そのため、人間の感情的にプライベートな話をしたくなったり、労務管理上サボっていないか疑うようになったりします。ただこうした気持ちが過剰になると、リモハラへと発展してしまいます。
Webハラスメントは意図せず起こしてしまうことが多いハラスメントと言えますが、「オンラインだから仕方ない」というのは理由になりませんので、意識して防止する取り組みが必要です。
Webハラスメントを防止する取り組み

Webハラスメントを防止するには、どのような対策が有効なのでしょうか。企業が実践すべきハラスメントに対する教育・指導についてお伝えします。
リアルでNGなことはネットでもNG
Webハラスメントが起こる背景には「オンラインだからやむ得ない」とか「オンラインだからこのくらいは問題ないだろう」という勘違いも一理あります。しかし、そもそも仕事や人間関係にオンライン(ネット)とオフライン(リアル)の境界線はありません。
マナー違反やハラスメントなど、対面のコミュニケーションにおいてNGなことはオンライン上でもNGです。ただテレワークは在宅やカフェなどで仕事ができるので、オフィスに出社しないことが気の緩みにつながりやすいのでしょう。
そのため、テレワークでは普段以上にハラスメント防止の意識づけが必要です。
仕事上のやりとりであるという意識
Webハラスメントを防止するには、オフィスに出社していなくても、仕事上のやりとりであるという認識が重要です。上司も部下も業務時間中は、友人どうしがする会話のようなフランクな言葉遣いは避け、報連相をしっかり行うなど、オフィスに出社しているときと同じ振る舞いを心がけましょう。
テレワークのルールを明確にする
Webハラスメントの防止には社員に対する意識づけのほか、企業としてテレワークにおけるルールづくりとその周知も非常に大切です。
たとえば、
- 出退勤の確認はどのような方法で行うのか
- 仕事の進捗状況の確認はビデオ会話なのかメールのみでOKか
- 離席するときや外回りのときの連絡体制はどうするのか
・・・など、社員に共通の認識がないと、ハラスメントにつながる恐れがあります。
実際にオフィスに出社しなくても、パソコンやタブレットの画面上は職場と変わりありません。これからテレワークを導入する企業もすでにテレワークを実施している企業も、Webハラスメント防止のために明確なルールづくりを早急に行いましょう。
Webハラスメント防止の取り組みはオンラインでの作業がスムーズに運ぶだけでなく、社員が働きやすい環境づくりにもつながるので、企業全体で実践することが望ましいと言えます。
オンラインで重要な5つのビジネスマナー

社会人としてビジネスマナーを守ることは当たり前ですが、Webハラスメント防止のための意識づけとして、ビジネスマナーの再認識はとても有効です。
在宅でも重要な身だしなみ
自宅で仕事をする場合でも、カメラ越しに会議や商談、面接を行います。そのため、身だしなみが整っていないと、相手に不快感を与えてしまう恐れがあります。
通常、オフィスに出社する場合はスーツやそれに準ずる服装が一般的ですが、昨今は私服OKな企業が増えており、テレワークでは服装自由というケースも多いでしょう。
ただそうは言っても、派手な色やシワ・汚れの目立つ服はカメラ越しでもわかります。一緒に仕事をする相手に好印象を与えるためにも、清潔感を保ち、見た目の良さを意識することが大切です。
オンラインだからこそ気をつける言葉遣い
カメラをオンにしての会話では、オフィスにいるときと変わらない感覚であることが多いと思います。しかし、気軽にチャットができるツール(LINE・チャットワーク・Slack・ZoomやTeamsのチャット機能など)では、メールの文章よりもフランクな会話になりがちではないでしょうか。
文字だけで簡単に連絡がとれてしまうオンラインだからこそ、言葉足らずや失礼のない言葉遣いが大切です。
公私混同を避ける時間管理の大切さ
テレワークで最も注意すべきことは公私混同です。自宅で仕事をしていると、郵便や宅配、子どもが泣き出した、要介護の親からSOSなど、作業を中断することは致し方ありません。
しかし、毎回のように席を外していたら仕事が捗らず、とりわけ締め切りのある作業には支障が出てしまいます。また席を外すことが常態化すると、仕事をサボっていると見なされ、ペナルティを科せられるかも知れません。
その他、始業や会議の時間に遅れることがないように事前準備を怠らないなど、時間管理の徹底を心がけ、仕事とプライベートのバランスをしっかりとることが大切です。
早く慣れたいデバイス設定
デバイス設定や通信環境の問題は仕事の進捗に大きく影響します。たとえば、明日から突然テレワークにすると言っても、パソコンや業務で使用する各種ツールの設定、Wi-Fiの状態などが整っていなければ、仕事相手に迷惑をかけてしまいます。
実際、会議の時間なのにビデオが映らなかったり、会話の音声が途切れ途切れで必要な情報が共有できなかったりといった経験があるでしょう。
そのため、企業はデバイスの設定状態をルール化し、社員はいつでもテレワークができるように、各種設定に早く慣れることもマナーの一環です。
プライバシーの保護を考える
プライバシーの保護はWebハラスメント防止の観点から、カメラに映る範囲に余計なものを見えないようにすることが大切です。たとえば、プライベートを干渉されそうなものは片づけたり、背景画像にぼかしを入れたりします。
そうすることで、画面を見たとき、業務に必要のないことが気にならなくなります。また個人情報・企業情報の漏れがないように、デバイスや作業スペースのセキュリティに気を配ることも重要です。
テレワークではオフィスで働くときと同じくビジネスマナーに気を配ることで、業務効率が向上し、円滑なコミュニケーションを図ることができます。そしてコミュニケーションの質が上がれば、お互いに敬意を払う振る舞いができるので、Webハラスメントは自然となくなるでしょう。
まとめ
オンラインでのやりとりには独特の距離感やストレスがあるため、お互いの感情や発言の意味が正確に伝わらないと誤解が生じやすく、Webハラスメントにつながるリスクが少なくありません。
とはいえ、オンライン上であってもパワハラやセクハラ行為をしてしまうと、相応の処分が科せられます。またハラスメントが発生した職場では業務運営に支障が出るため、企業にとっては生産性も低下するでしょう。
そうした状況に陥ることを防ぐためにも、企業はハラスメントやビジネスマナーに対する専門の研修を実施することが望ましいと言えます。社員教育の充実こそが企業の生産性向上につながるのです。