「言葉だけは聞いたことがある」「友人の苗字が、“高”でなく“髙”になっている」などの経験はありませんか?
ポスターやチラシや名刺などに限らず、意外と「旧字(旧字体)・異体字・外字」は私たちの周りにあり、特に人名や会社名でデザイナーが出会う機会は多いです。
デザイナーが知っていて損はない、むしろ知る必要のある文字の知識なので、「旧字(旧字体)・異体字・外字」について詳しく解説していきます。
旧字(旧字体)とは?
旧字(広辞苑では旧字体※)は、戦後に発表された漢字表(当用漢字字体表)に無い明治時代の漢字のことです。
※ここからは旧字とします
漢字の歴史に繋がることですが、1949年に政府の方針で今では旧字と呼ばれる複雑な字の漢字は、簡略化した方の字を一般的に使用するよう「当用漢字字体表」で告示しました。
「簡略化?新しく作ったの?」と疑問に思った方は多いでしょう。
要は、画数が少ない字の漢字に改められただけで、新たに作ったわけではありません。呼び方は新字体と呼ばれています。
実は現在でも整備され続け、現代の国語・新聞や雑誌・公文書などの公的な場で使用する一般的な目安として、2010年に「常用漢字表」の第2号が内閣から告示されています。
もちろん、使用を制限するものではなく、過去の漢字を使用することを否定しているものではありません。各新聞社は、告示された常用漢字表をもとに独自の基準を定め、旧字も必要に応じて使用しています。
例えばどの漢字が旧字に当たる?
意外と普段使用している漢字の中に、旧字は溢れています。
例えば以下の通りです。
- 「沢」→旧字「澤」
- 「竜」→旧字「龍」
- 「会」→旧字「會」
- 「広」→旧字「廣」
- 「吉」→旧字「𠮷」
- 「國」→旧字「国」
いかがでしょうか?
「そう!旧字は複雑な字が多いです。」
さらに、人名や歴史が古い会社名などで、見かけたことがある漢字ばかりではないでしょうか。
なぜ旧字は人名や会社名で見かけることが多い?
内閣告示の「常用漢字表」は、一般的な目安であり個人の表記の際は適用外とされています(それ以外にも、科学・芸術などの専門分野で適用外であり、過去の文献についても否定しないと告示されています)。
また、苗字が旧字で戸籍に登録されている方が、公式な書類に記載する場合は戸籍に登録されている旧字で記載する必要があるとされています。そういった経緯を含め、人名や会社名などで特に旧字を見かけることが多いのでしょう。
異体字とは?
異体字は、一般的に使用されている常用漢字と読み方(発音)や意味が同様の漢字を指します。
「え?旧字と何が違うの?」と疑問に感じた方は多いでしょう。
実は、異体字という大きな分類があり、その中に旧字が含まれます。
異体字には何が含まれる?
先程、異体字が大きな分類とお伝えしましたが、異体字の中には「旧字」「略字」「俗字」が含まれ、その総称が異体字です。
- 略字→漢字を形作る点や線を簡略した字
- 俗字→漢字の由来になったものから外れていき、世間に流通した字
「漢字ってそんなに種類があるの?」と思った方、実はそのとおりなんです。
これは漢字が歩んできた歴史に繋がります。
ザックリ漢字の歴史をご紹介
様々な人が古くから使用してきているので、歴史を重ねるごとに文字の種類は無数に増えていき、各時代で好まれる字体は変化します。手書きや木に手作業で彫刻した後印刷(木版)していた時代、書きやすさを求め崩すのはよくあることでした。
しかし、金属製の活版印刷が日本でも活躍し始めた戦前では、崩した字体でなく今で言う旧字が印刷物に使用されることが多くなっていきます。金属製の活版印刷なので、木製でないため耐久性も高く、一文字ごとに文字を一度作ると何度でも使用ができます。
また、木版に比べ印刷する際の人の手間が少なく、一度に印刷できる部数も格段の差がありました。そのため、字を崩して書きやすさを求める必要もなく当時正式だった旧字を使用することで、結果的に多くの人が旧字を見る機会が増えたのでしょう。
その後上述でお伝えした通り戦後、漢字は一般的に新字体を使用する方向になり、現代へと繋がります。もちろんこれまで人々が使用してきた「旧字」「略字」「俗字」は消えていくのではなく、「異体字」の一つに分類されるようになりました。
外字とは?
旧字や異体字については、なんとなくイメージがわきましたか?
ここで、疑問に思うのが「外字」です。
簡単に説明すると、パソコンで使用するフォントに元々用意されておらず、変換ができないので後から追加された文字のことを「外字」と呼びます。
一般的に用意されている文字に比べると使用頻度が低い、先程ご紹介した「旧字」や「異体字」などが含まれているのが特長です。
また、文字と聞くと、漢字だけを思い浮かべる方が多いでしょう。
実は、漢字に限らず特定の記号やアイコン(マーク)なども、外字の分類に含まれると言われています。
昔は、それ程昔ではありませんが……外字に当たる文字を使用する場合、専用の外字フォントを追加したり、Illustratorなどの制作ソフトで必要に応じてデザイナーたちは作成していました。
どういったフォントが外字が少ないないしに無かったかというと、OCFフォントやAdobeが昔開発したCIDフォントという分類のものでした。
現在は、マイクロソフトとAdobeで開発した「OpenTypeフォント」という分類に当たる多くのフォントが、多種多様な文字(記号やマークを含め)を予め登録していることが多くなったため、一から作成する機会は減少しています。
デザインする際、作成が必要な漢字の例
現在でも、使用したいフォントに外字が用意されていない場合は、デザイナーは制作する必要があります。
これからご紹介する例の中でも、フォントによって用意されている場合があるので、あくまでも参考として頭の片隅においてください。
「角」「西」も色々な媒体でそこかしこで見かける漢字ですが、実は上記のような外字があり苗字などに使われています。もしクライアントからの指示で、このようにキッチリした形でなく、手書きで走り書きで記されていると、一見「間違い?クセ?」と思ってしまいやすい字形です。
また、ワードの原稿などで外字を入力し渡される場合でも、データを開示する環境によって文字が正しく表示されない可能性があります。
デザイン作成時には注意し、クライアントによく確認してもらうことをおすすめします。
まとめ|旧字・異体字・外字の違いは?
まとめると以下の通りです。
- 旧字
→戦後に発表された漢字表(当用漢字字体表)に無い明治時代の漢字 - 異体字
→一般的に使用されている常用漢字と読み方(発音)や意味が同様の漢字 - 外字
→パソコンで使用するフォントに元々用意されておらず、後から追加された文字(旧字・異体字・記号やマークなど)
デザイナーとして活動する際、遅かれ早かれ現場で「旧字・異体字・外字」に出会う機会がやってきます。ぜひこの機会に、どんな外字があるか調べてみてください。