企業が持続的に成長するためには人材育成が欠かせません。そこで近年、注目を集めているのがリスキリングです。
従業員にリスキリングを促すにはコスト負担が避けられず、導入を躊躇する企業も少なくありませんが、そんな企業におすすめなのが助成金の活用です。
この記事では、低リスクでリスキリングを導入できる国の人材開発支援助成金制度「事業展開等リスキリング支援コース」について解説します。
目次
人材開発支援助成金制度「事業展開等リスキリング支援コース」とは?
人材開発支援助成金制度は、厚生労働省によると次のように定義されています。
「労働者の職業生活設計の全期間を通じて段階的かつ体系的な職業能力開発を効果的に促進するため、事業主等が雇用する労働者に対して職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度」
厚生労働省資料より引用(https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000807259.pdf)
事業展開等リスキリング支援コースの概要
人材開発助成金制度は、簡単にいうと、「ルールに沿って計画的に従業員のスキルアップをしたら、国がその費用を負担しますよ」という話です。
そして国は2022年12月、この制度に「事業展開等リスキリング支援コース」を創設しました。
事業展開等リスキリング支援コースは、企業が持続的に成長するために必要な新たな事業展開に対し、国の定めた技術を取り入れて業務効率化を図るときの支援システムです。
主に(1)新規事業の立ち上げ(2)DX化(3)グリーン・カーボンニュートラル化に対応する人材育成(リスキリング)が対象となります。
(1)新規事業の立ち上げ
新規事業の立ち上げとは既存事業にとらわれない新たな事業展開です。
たとえば、
- 繊維製品の製造が主力事業だが、医療機器の製造を始めて新規顧客を開拓する
- 和食専門のお惣菜屋がイタリアンレストランを開業する
- 対面販売のみだったが、オンライン販売を始める
・・・などが当てはまります。
(2)DX化
DX化はデジタル技術による業務効率化やそれによってビジネスモデルを変革し、市場での優位性を確立することです。
たとえば、
- 契約書や請求書を電子化してペーパーレス化を進める
- チャットボットを開発して問い合わせ対応を自動化する
- キャッシュレス決済を導入して購入手続きを簡素化する
・・・などが当てはまります。
(3)グリーン・カーボンニュートラル化
グリーン・カーボンニュートラル化は政府が掲げるグリーン成長戦略(温室効果ガスの排出を実質ゼロにする地球環境に配慮した社会づくり)です。
たとえば、
- 肥料散布をトラクターではなくドローンで行うようにする
- 飲食店のストローをプラスチック製から紙製にする
- 田畑にソーラーパネルを設置して作物に必要な太陽光が届くにようにする
・・・などが当てはまります。
こうした幅広い適用範囲に対して、リスキリングの導入費用を助成してもらえるのはとても魅力的ではないでしょうか。
リスキリングが必至となった背景
企業にとってリスキングを導入する費用を助成してもらえるのはありがたいことですが、そもそもなぜ、リスキリングが必要なのでしょうか。それには3つの背景があります。
技術の急速な進化
現代社会は、人工知能・機械学習・自動化などの新しい技術の発展によって急速に変化しています。そして今後、新しい技術が一般的になるにつれて、従来のスキルや職種は不要となり、新しいスキルの必要性や職種が生まれます。
コロナ禍の影響
新型コロナウイルスの世界的なパンデミックによって、多くの産業が需要の減少や失業といった打撃を受けました。そしてリモートワークが増える中、デジタルスキルを持たない人は雇用機会を失う可能性が強まってきたのです。
グローバル化
グローバル化によって、企業はますます国境を越えた取引を行うようになりました。そのため、異文化コミュニケーション・国際取引・グローバルビジネスの知識など、新しいスキルが必要とされています。
このように、3つの背景からリスキリングの必要性は年々高まっており、企業は従業員のスキルに対してアップデートを促すよう迫られているのです。
事業展開等リスキリング支援コースの対象事例
助成金を活用すればリスキングを導入できるといっても、具体的にどのような訓練を行えば良いかわからないという企業もあるでしょう。ここでは事業展開等リスキリング支援コースの対象事例をお伝えします。
支給対象となる3つの訓練事例
助成金の支給対象となる訓練事例は次の3つです。
- 実訓練時間数が10時間以上
実訓練時間数とはトータルの訓練時間数から移動時間や助成対象とならないカリキュラム(記事後半「助成金の支給条件や注意点、申請手順」で解説)を除いたものです。 - OFF-JT(OFF the Job Training)
OFF-JTとは企業の事業活動と区別して行われるものです。既存事業のスキル習得として広く活用されているOJT(On the Job Training)とは異なり、新たな成長分野で戦力となるスキルを身につけるための訓練と言えます。 - 職務に関連かつ指定された訓練
指定された訓練とは次の2パターンのいずれかに当てはまることが求められます。- 新たな事業展開を行うにあたり、必要となる専門知識やスキル習得のための訓練
- DX化やグリーン・カーボンニュートラル化の促進に関連する業務に従事させるために必要な専門知識やスキル習得のための訓練
他の資金と何が違う?助成金活用のメリット
助成金は融資や補助金と何が違うのでしょうか。また事業展開等リスキリング支援コースは他の助成金と比べてどんなメリットがあるのかをご紹介します。
助成金と他の資金の違い
助成金は金融機関からの融資と異なり、返済する必要がありません。また会計処理上は雑収入となるため、リスキリング導入にあたっての費用は「良質なのに安価なもの」を選べば、より収益を向上させることが可能です。
また支給要件を満たし、計画を達成すれば必ずもらえることや「助成金の受給=国の審査に合格」という社会的信用を得られるメリットもあります。
一方、融資なら返済はもちろん利息の支払いも必要です。また補助金は予算が限られているため採択されない場合があり、採択されても支給までの期間が長く、それまでの資金が必要となります。
助成率と助成額
事業展開等リスキリング支援コースの助成額および支給限度額は次の通りです。
①助成額(1人1コースあたり)
中小企業 | 大企業 | ||
---|---|---|---|
経費助成 | 賃金助成 | 経費助成 | 賃金助成 |
受講料総額の 75% | 1時間あたり 960円 | 受講料総額の 60% | 1時間あたり 480円 |
支給される助成額には「経費助成」と「賃金助成」があり、企業規模によってそれぞれの支給割合が変動します。
②限度額について
企業規模 | 10時間以上 100時間未満 | 100時間以上 200時間未満 | 200時間以上 |
---|---|---|---|
中小企業事業主 | 30万円 | 40万円 | 50万円 |
中小企業以外の事業主 | 20万円 | 25万円 | 30万円 |
1人1年間職業能力開発計画あたりのOFF-JTにかかる経費助成の限度額は、実訓練時間数に応じて定められています。
他の助成金との比較まとめ
事業展開等リスキリング支援コースと他の助成金を比較してみましょう。
たとえば、人への投資促進コース(長期教育訓練休暇や教育訓練短時間勤務等制度など)は、1事業所1年度当たりの助成限度額は2,500万円です。それが事業展開等リスキリング支援コースは1億円なので、破格の助成額と言えます。
また受講者1人あたりの経費助成限度額についても、一般訓練コースは20時間以上100時間未満は7万円・100時間以上200時間未満は15万円・200時間以上は20万円ですが、事業展開等リスキリング支援コースはこれらを大きく上回っていることがわかります。
情報元:厚生労働省HP「人材開発助成金」より
助成金の支給条件や注意点、申請手順
それでは実際に助成金をもらうにはどのような手続きをすれば良いのか?支給条件や注意点、申請手順を見ていきましょう。
支給条件を確認しよう
事業展開等リスキリング支援コースは、企業側だけでなく従業員に対しても支給条件があります。
<支給対象となる企業の条件>
- 雇用保険適用事業所の事業主である
- 労働組合等の意見を取り入れた事業内職業能力開発計画とそれに基づく年間職業能力開発計画を作成し、その計画の内容を従業員に周知している
- 職業能力開発推進者を選任している
- 従業員に職業訓練等を受けさせる期間中も、賃金を適正に支払っている
- 助成金の支給または不支給の決定に係る審査に必要な書類等をそろえ、それらを5年間保存している
- 管轄労働局長が必要と認めた場合は、その書類等を提出または提示したり、実地調査に協力したりする
- 事業展開等実施計画(様式第2号)を作成する
<支給対象となる従業員の条件>
- 支給対象となる企業の事業所において被保険者である
- 訓練実施期間中においても被保険者であること
- 訓練実施計画届時に提出した「訓練別の対象者一覧」に記載のある被保険者である
- 訓練を受講した時間数が、実訓練時間数の8割以上
- 訓練等の受講を修了していること
- 定額制サービスに含まれる教育訓練を修了していて、その修了した訓練の合計時間数が1時間以上
国の定めた支給条件はすべてクリアしている必要がありますので、「訓練実施後に助成金がもらえない」なんてことのないように、支給条件は入念にチェックしましょう。
対象とならない訓練もある?
事業展開等リスキリング支援コースは、対象とならない訓練もあります。それは主に、新しい事業展開やDX化、カーボンニュートラル化と無関係なものです。
<助成金支給の対象とならない訓練事例>
- 車やバイクの運転免許取得のための講習など、職務と直接関係のないもの
- 接遇やマナーなど社会人として基礎的なことを身につける訓練
- 旅行英会話や漢字検定など、趣味や教養を目的とした講習
- 会議、機器の操作を習う、製品開発のための研究など、通常の事業活動に含まれるもの
- 講演会や見本市のように、実施する目的と訓練の内容が一致しないもの
- 法令で義務付けられた許認可手続きや講習の受講
- 意識改革やモラル向上の研修など、スキルアップではないもの
- 訓練を受けなくても得られる資格の試験や仕事上の適性検査
これらは助成対象となる実訓練時間に含まれないので注意しましょう。
助成金の申請フロー
助成金申請にあたって最初にやるべきことは、企業内で職業能力開発推進者を決めることと事業内職業能力開発計画を作ることです。その上で、各都道府県の労働局またはハローワークに相談します。
次に訓練実施計画届を各都道府県の労働局またはハローワークに提出し、訓練を実施します。
訓練が終了したら、指定された期間内に支給申請書を同じく各都道府県の労働局またはハローワークに提出し、審査に問題なければ助成金支給の運びとなります。
情報元:厚生労働省「人材開発助成金 事業展開等リスキリング支援コースご案内(詳細版)」より
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001019762.pdf
まとめ
人材開発支援助成金制度「事業展開等リスキリング支援コース」は従来の助成金と比べて、助成率や助成額が大幅に上乗せされているため、低リスクでスムーズなリスキリングの導入が可能です。
ただそうは言っても、企業内で訓練を実施するリソースがない場合もあるでしょう。
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