
AI時代はこれまで人が担っていた業務の一部が代替されていく一方、新たに求められるスキルや職種が高度化しているのも事実です。ただ、日本は人口減少が続いており、採用だけで必要な人材を確保することは難しくなっています。
そこで求められているのが、人材の再設計です。
本記事では、配置転換とリスキリングを軸に、助成金を活用しながら企業の利益向上を目指す人事戦略について解説します。
目次
AI時代の人事課題
AIの普及により、人事の役割は「採用」から「人材ポートフォリオの最適化」へと変化しつつあります。これは、帝国データバンクの調査で「企業の経営課題(2026年)の中では人材強化が90.2%」という結果からも明らかです。
とはいえ、多くの企業で人事課題が山積しています。
例えば、昨今の有効求人倍率は1倍を超えて推移しており、採用コストばかり上がって人手不足は解消しない状態です。また、社員のスキルを可視化できていないことで適材適所の人員配置ができず、ミスマッチによる離職率も上がっています。
こうした状況を打破するために今、多くの企業が既存社員の育成強化に乗り出しています。

配置転換はコスパがいい?
配置転換による人材強化は、人事施策の中でもコスパが良いと言えます。
なぜなら、企業内にはすでに活用されていない人材資源が存在しているからです。
例えば、事務職はデジタル化や自動化によって効率化が進み、一部の企業では余剰人員となっています。一方で、IT・DXの領域では慢性的な人材不足のため、採用市場での人材獲得競争は激化しています。
このように、企業内で人が「余っている領域」と「足りない領域」が同時に存在している状態こそ本質的な人事課題です。
このギャップを採用だけで埋めようとすると、コストは急激に増えます。一般的に中途採用における紹介手数料は年収の30〜35%とされており、仮に年収500万円の人材を採用する場合、150万円以上のコストが発生します。さらに、採用後の教育や定着までの期間を考慮すれば、実際の投資額はそれ以上になるでしょう。
しかし、配置転換であれば採用コストが不要なだけでなく、企業文化や業務プロセスへの理解がすでにあるのは大きなメリットです。そのため、適切な教育を施せば、短期間で多大な戦力になる可能性が高いと言えます。
実際、経済産業省が提唱する人的資本経営においても、企業の競争力を高める手段として社内人材の再配置やリスキリングの重要性が示されています。つまり、配置転換は単なる人事上の調整ではなく、低コストで新たな価値を生み出す経営戦略の一環なのです。
人材配置を機能させるための課題と解決策
配置転換の課題
配置転換は重要な経営戦略の一環であるものの、配置転換された社員が戦力になっていないケースも少なくありません。その原因は明確であり、スキルの定義が曖昧であることや過度なOJTへの依存、人材育成を設計していないことに集約されます。
まず、スキルの定義が曖昧なまま配置転換を進めると、「何ができる人材なのか」や「どの業務に適合するのか」が判断できず、結果としてミスマッチが発生します。また、配置後の育成を現場任せのOJTに依存すると、教育の質が属人化し、成果にばらつきが生じます。
さらに、そもそも育成設計がなければ、配置転換は単なる人の入れ替えでしかなく、むしろ社員のモチベーションを下げるなど逆効果になりかねません。
2ステップで進める人材配置の再設計
こうした課題を回避し、配置転換をスムーズに進めるには、次の2ステップが有効です。
1.スキル可視化
IPA(情報処理推進機構)が公開しているデジタルスキル標準(DSS)では、DX人材に求められるスキルが職種やレベルごとに体系化されています。これを活用することで、どの社員がどの領域で活躍できるのかを定量的に把握することが可能です。
2.リスキリング
多くの企業ではOJTで育成する流れが一般的ですが、この方法では戦力になるまでに時間がかかり、現場の負担も大きくなります。しかし、あらかじめ必要なスキルを習得させた上で配属させれば、その社員は早い段階で一定のパフォーマンスを発揮できるでしょう。
例えば、これまでExcelによるデータ集計を担当していた社員にPythonによるデータ分析スキルを身につけてもらうとします。そうすると、この社員をデータサイエンスやデジタルマーケティングといった部門への配置転換が可能になります。
内製化のジレンマ
先ほどお伝えした1.スキル可視化と2.リスキリングは、自社で完結させようとすると、教材の開発や講師の確保に時間もコストがかかり、結果的に育成スピードが下がります。そのため、短期間で実務に直結する外部研修を活用することも効果的です。
外部研修は、資金的に余裕がないという企業もあると思いますが、助成金を活用すればその心配は杞憂に終わるでしょう。とりわけ厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)は、2026年の改正で人事及び人材育成に関する計画に基づく訓練が対象になりました。
2026年3月改正!さらに使いやすくなった助成金
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)は、新しい事業を始めるとき、社員に必要なスキルを身につけさせる研修を行うとその費用や研修中の給与の一部を国が支援する制度です。
従来のDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーンカーボンニュートラル)だけでなく、これから従事させる職務のためのリスキリングも助成対象となりました。
つまり、単なる研修補助ではなく、人材戦略そのものへの投資に活用できるため投資リスクが大幅に低減されています。
対象となる訓練と助成金額
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)の対象となる訓練は、次の3つに当てはまることが条件です。
1.助成対象とならない時間を除いた訓練時間数が10時間以上であること
2.OFF-JT(企業の事業活動と区別して行われる訓練)であること
3.職務に関連した訓練であって以下のいずれかに該当する訓練であること
・企業において事業展開を行うにあたって実施する訓練
・事業主において企業内のデジタル・デジタルトランスフォーメーション化やグリーン・カーボン
ニュートラル化を進めるにあたって実施する訓練
・企業内の人事及び人材育成に関する計画に基づき、対象労働者が今後従事することが予定
される職務に必要となる専門的な知識・技能の習得をさせるための訓練
助成率と助成額、受講者1人あたりの経費助成限度額は以下の通りです。

画像引用元:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」
さらに、2026年4月の改正では、設備投資に対する助成額の追加支給も認められるようになりました。
助成金を追加でもらうには、設備投資に関する計画書を作成し、研修では事業展開で使用する機器と同じ種類のものを研修(実技)でも使用することなどが条件です。
厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正」より引用
人事戦略に伴う助成金の活用事例
2026年の改正による活用ポイントは、「どの人材を、どの領域に再配置するか」を明確にしたうえで、必要なスキルを計画的に習得させることです。
事務職のDX
これまで手作業でデータ集計を行っていた社員を対象に、PythonやBIツールの研修を実施することで、一般事務(総務・経理・営業)からDX推進担当・経営企画・情報システム部門などへ配置転換が可能になります。
これは単純作業に対する人件費を削減できるだけでなく、データに基づいた意思決定が可能になり、業務の付加価値向上につながります。
営業職のDX
デジタルマーケティングやデータ分析のスキルを習得させることで、個人の経験に依存する属人的な営業スタイルから脱却し、組織的な営業体制の構築が可能になります。これにより、社員の営業成績のばらつきが減り、安定的な売上UPが期待できます。
製造業DX
IoTやCAD技術を活用したスマートファクトリー化を目指し、必要な技術研修を行い、新たな工程や役割へ配置転換するケースも有効です。少人数でも品質を保ったまま生産量を増やしたり、製造プロセスを一括管理したり、生産性の向上と人手不足の解消を同時に達成できます。
このように、配置転換を前提とした人材価値の再設計に助成金を活用することで、企業全体の利益改善が可能です。
助成金活用の流れ
助成金の申請は、複雑な書類を作成やスケジュールに沿った書類の提出が必要ですが、私たちは社会保険労務士とタイアップしたサービス(助成金申請アシスト+)をご用意しております。そのため、本来の業務に支障をきたすことなく、助成金の申請が可能です。
以下は、助成金が支給されるまでのスケジュールです。

《注意事項》
・制度改定により、訓練開始前の「申請認定」は廃止され、支給可否は訓練修了後に行う支給申請時に労働局で審査されます。(2025.4)
・労働局への申請書類の提出は、受講開始の前日より起算して1か月前までとなります。
・受講スケジュール申請後の変更には、変更申請が必要になります。
・申請通りに受講されない場合、助成金が支給されない場合があります。
おわりに
AI時代に求められる人事戦略は、人を増やすことではなく、既存人材の価値を高めることです。幸いなことに、今は国のリスキリング支援や助成金制度が拡充されているため人材投資をしやすい環境にあります。
これからの企業に必要なのは、人材価値を最大化する視点です。配置転換×リスキリング×助成金により、ぜひ生産性向上と利益改善を同時に実現させましょう。
この記事の情報元:厚生労働省ホームページ「人材開発支援助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html



