小売業や流通業において、新卒社員が即戦力として活躍できるかどうかは、新入社員研修の内容や質が大きなカギを握っています。
昨今の当業界はデジタル化や顧客ニーズの多様化が急速に進み、従業員には幅広いスキルが求められています。そうしたスキルを新卒社員に身につけてもらうには、どのような研修が効果的なのでしょうか?
この記事では、小売・流通業界の現状や課題を踏まえた上で実施すべき効果的な新入社員研修をご紹介します。
目次
小売業・流通業の現状と課題
テクノロジーの進化や消費者の価値観の変化により、小売・流通業界の現状はどうなっているのでしょうか?また、そこから見えてくる課題をまとめました。
ECサイトの台頭
現代の消費行動は、スマートフォンの普及により大きく変化しました。消費者は各種メディアで商品を知り、それを実店舗で商品を確認した後、ネットで購入するという行動が増えつつあります。
とりわけECサイトは、いつでもどこでも気軽にアクセスできるため、価格の比較も簡単にできます。そのため、店舗をショールーム化する企業も少なくありません。
そこで、オンラインとオフラインを融合させた「O2O(Online to Offline)」戦略が求められる時代と言えます。
インバウンド需要の回復
コロナ禍で落ち込んでいたインバウンド需要は回復しており、地域によってはオーバーツーリズムが懸念されるほどです。そのため、外国人向けの商品展開やサービス提供に注力し、国内市場だけでなく国際市場にも目を向ける必要があります。
モノ消費からコト消費へ
私たちの価値観も大きく変化しています。それは「モノを買う」という消費から、「体験やサービスを重視する」コト消費へのシフトです。こうした消費者ニーズの変化に対応するために、商品の販売だけでなく、顧客体験を高める戦略を強化が大切です。
ITやロボットによる省人化
多くの企業で人手不足の問題が深刻化する中、ITやロボット技術の導入による省人化が進んでいます。セルフレジや自動化された倉庫など、テクノロジーを活用した効率的な運営といったトレンドは今後も加速するでしょう。
ただ、省人化はコスト削減に貢献する一方、顧客との接点や品質の維持という新たな課題も生じています。
消費者の二極化
昨今は、消費者の二極化が進んでいるため、企業の戦略も低価格を武器にしたディスカウント業態と付加価値の高いサービスを提供するプレミアム業態に分かれています。これは、市場の中間的なポジションをとる企業にとって厳しい環境であり、そうした企業はポジショニングの見直しを迫られていると言えます。
小売業・流通業で求められるスキル
小売業・流通業の現状から見えてきた課題を解決するには、どのようなスキルが求められるのでしょうか?新卒社員に習得を期待する4つのスキルについて解説します。
実店舗ならではの強みや期待を超える対応力
実店舗の強みは、オンラインショッピングにはない顧客との直接的な接触です。顧客は実際に商品を手に取ったり、店員との会話を通じて購買意欲を高めたりするので、彼(彼女)らの期待を超える対応力が求められます。
たとえば、店員の丁寧で親身な接客、顧客の要望に応じた柔軟な対応、迅速な問題解決などです。これによりリピート率やブランド力が高まり、売上や顧客満足度の向上につながります。
人手不足の補完やエンゲージメント
小売業・流通業では、慢性的な人手不足が続いており、それを補完するための工夫が必要です。そのため、従業員一人ひとりのモチベーションを高め、企業やブランドへのコミットメントを向上させることが求められます。
また、省人化を進めるために、IT技術を活用した業務の効率化やロボット・AIを導入した自動化も効果的です。これにより、限られた人員でも高いパフォーマンスを維持することができ、顧客対応や店舗運営における質の低下を抑制できます。
ユーザー視点のサイトづくりやデジタルマーケティング
デジタル化が進む小売業・流通業界において、ユーザー視点のサイトづくりは非常に重要です。オンラインショッピングが普及した今、消費者は使いやすく、目的の商品が簡単に見つかるECサイトを求めています。
サイトのデザイン・ナビゲーション・商品検索機能、そして購入プロセスの簡素化が、顧客満足度や売上に直結します。
また、デジタルマーケティングのスキルも欠かせません。SEOやSNSなど、消費者にアプローチしながら、その行動データを分析してサイトを改善させることが重要です。
WEBサイトやアプリ制作の知識(デザイン・コーディング)
WEBサイト・アプリの制作知識は、今後さらに重要性を増していくでしょう。単なるデザインの美しさだけでなく、使いやすさや機能性を兼ね備えたWEBサイト・アプリ制作が求められています。 また、HTML・CSS・JavaScript・PHPなど、コーディングの知識やスキルを持つことで、WEBサイト・アプリの制作や運用、改善を迅速にできます。
小売業・流通業の新卒社員はモチベーションが高い
新卒社員には小売業・流通業で求められるスキルの習得が期待されていますが、新卒社員側はどのような意気込みで入社してくるのでしょうか?データからみる新卒社員のモチベーションについてご紹介します。
新卒社員の意気込み
株式会社ラーニングエージェンシー(旧トーマツ イノベーション株式会社)が、ラーニングイノベーション総合研究所(人と組織の未来創りに関する調査・研究を行う組織)と行ったリサーチによると、小売業・流通業の新卒社員は他業種に比べて、リーダーシップへの意気込みが伝わります。
画像引用元:PRTIMS(2022年7月19日配信記事内、株式会社ラーニングエージェンシー公開資料)
こうしたデータから言えることは、小売業・流通業の新卒社員のモチベーションは高いということです。また、リーダーシップへの意気込みから先ほどお伝えした求められるスキルの中でもコミュニケーション力やエンゲージメントの向上が期待できます。
デザインやコーディング、デジタルマーケティングについても、組織を率いていくにはそれらの知見も必要なので、新卒社員の学びに対する意欲は高いと言えるでしょう。
ただそれらのスキル習得には、社会人としての意識や行動の基本(ビジネスリテラシー)を備えていることが大前提です。そのため、新入社員研修では、ビジネスリテラシーが身につくカリキュラムを最優先で行う必要があります。
実務に直結する3つ観点から実施する研修プログラム
新卒社員に社会人としての基礎スキルを身につけてもらったら、いよいよ実務レベルでのスキル習得を促します。とりわけ小売業・流通業においては、企画・営業・店舗の3つの観点から研修を実施することが重要です。
どの部門に配属されても使えるスキル
小売業・流通業の新入社員研修で有効なプログラムとは、新卒社員が企画・営業・店舗のどの部門に配属されても使えるスキルを身につけられることです。たとえば、次の5つのスキルが身につく研修を実施することで、新卒の段階でジョブ型雇用に近い成果を出せる可能性が高まります。
1.ITリテラシー
ITリテラシーは、現代の業務において必須のスキルです。とりわけ小売業・流通業では、DXによる業務効率化が急務と言えます。
ITリテラシーを学ぶことで、パソコンやスマートフォン、クラウドサービスの基本操作が身につき、社内外でのコミュニケーションや情報の管理・共有をスムーズにできるようになります。そのため、作業スピードの向上やミスの削減など、新卒社員でも生産性の向上が期待できます。
2.Word(ワード)
Wordは、報告書や企画書の作成に欠かせないツールです。基本的な操作のほかレイアウトの調整により、統一感のある文書を効率よく作成できるスキルが身につきます。小売業・流通業では、社内資料や商品説明書などの作成に役立ちます。
3.Excel(エクセル)
Excelは、データの集計や分析に最適なツールです。基礎が身についたら、関数やピボットテーブルを活用した高度なデータ分析を学び、売上や在庫の管理、顧客データの分析など、ビジネスの意思決定に貢献できます。
4.PowerPoint(パワーポイント)
PowerPointは、主にプレゼン資料を作成するためのツールです。商品の提案や営業活動、社内の会議などで効果的に情報を伝えるため、視覚的にわかりやすい資料を作るスキルが求められます。
スライドのレイアウトやデザインの基本、アニメーションやグラフの効果的な使い方は、WEBサイト・アプリのデザインスキルにもつながります。
5.Power Automate Desktop
Power Automate Desktopは、業務の自動化を実現するツールです。定例作業や複数のアプリケーション間でのデータ転送を自動化できます。
毎日の在庫管理や売上データの集計作業を自動化することにより、従業員の作業負担を軽減できるので、労働時間をより価値の高い業務に充てることができます。ITスキルに自信がない社員でも、業務改善に直結する可能性が高くなります。
おわりに
繰り返しになりますが、小売業・流通業における新入社員研修では、即戦力をとして育てるプログラムが非常に重要です。コミュニケーション力はもちろん、ITリテラシーやデータ分析など、実務に直結するスキル習得を促すことで企業全体の生産性向上につながります。
新卒社員のモチベーションが高いうちに、効果的な研修を通じて彼(彼女)らの成長を加速させましょう。
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