
2023年10月、消費税や適用税率を適格化するインボイス制度が始まります。また2024年1月には電子取引に関するデータ保存が完全義務化されます。そのため、各企業では経理部門の負担増が懸念されています。
一方で、経理の仕事はAIやRPAといった自動化ツールの普及により、将来的になくなる可能性が否めません。こうした状況に対し、各企業の担当者はどのような行動をとるべきでしょうか。
この記事では、変革を迫られる経理業務について、財務・会計も含めた社内DXの進め方をご紹介します。
※インボイス制度や電子帳簿保存法について詳しく知りたい方は、国税庁のホームページを参照ください。
インボイス制度
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_about.htm
電子帳簿保存法関係
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/index.htm
インボイス制度で経理の仕事は負担増?

インボイス制度の開始により経理業務はどの程度、負担が増えるのでしょうか。まずは経理部門の現状を把握しましょう。
すでに煩雑?経理部門の現状
そもそも経理部門はデジタル化が遅れている企業が多いと言われています。事実、経理業務はハンコの押印による承認や紙ベースの帳票類でのやりとり、データ入力など、未だ手作業が中心の企業は少なくありません。
また専門性のある業務のため、特定の社員でないと処理できないなど、作業が属人化することもしばしば見受けられます。
こうした状況は、経営上の問題が発生する場合もあります。たとえば、日々作業に追われてデータから導かれる提案や意思決定ができないことや記帳ミス・決算の遅れといった信用に関わる事象です。
そのため、煩雑な経理業務の効率化は喫緊の課題と言えます。
インボイスによる作業負担
実際にインボイス制度が始まると、課税事業者は次のような作業が必要になります。
- 仕入先の登録番号を取引の都度照合
- インボイスの要件を満たしているかの確認
- インボイス登録事業者と免税事業者別に計算や記帳方法の区分け
これらが通常業務として加わるため、経理業務の負担が増えることは言うまでもありません。
10年後、経理の仕事はなくなる?
各企業の経理部門はすでに業務が煩雑な状態であり、インボイス制度によってさらなる負担増を強いられる中、経理の仕事は将来的になくなると言われています。なぜなら、経理の仕事は定型作業が多く、それらはAIやRPAといった自動化・効率化ツールが得意とする作業だからです。
また経理業務はお金の流れを正確に記録することが求められますが、人間が行う以上、一定の割合で必ずミスが起こります。それがAIやRPAなら人間よりも早く正確に処理してくれるので、ミスの心配がありません。
そう考えると、将来、経理の仕事がなくなる可能性は決して低くないでしょう。
インボイス制度開始を機に社内DXを進めよう!

インボイス制度は、経理部門にとって単なる法令遵守ではなく、社内DX推進のチャンスでもあります。なぜなら、DX化によってさまざまな作業効率を改善できるからです。
絶好のタイミング
経理業務がAIやRPAにとって変わられる脅威はあるものの、DXの推進は人材不足の解消や業務効率化による新たな価値創造といったメリットがあります。
国の施策である以上、インボイスの導入は避けて通ることができません。だからこそ、各企業は社内DXを進める絶好のタイミングと言えます。
社内DXはじめの一歩はペーパーレス化
社内DXを進めると言っても、何から始めれば良いかわからず手をこまねいている担当者は少なくないと思います。そこで、最初の取り組みとしておすすめするのが、デジタルツールの活用によるペーパーレス化です。
先ほどもお伝えしたように、経理業務は紙ベースのやりとりをはじめとする手作業が多い状況です。それが電子化されれば、ハンコの押印や書類の郵送、資料のファイリングといった作業が不要になります。
ペーパーレス化のメリット
ペーパーレス化は面倒な手作業を減らすだけではありません。
たとえば社員の経費精算において、その申請と領収書を紙ベースで提出してもらい、それを1枚1枚チェックしてデータを手入力しているとします。これをクラウド上のシステムで管理すれば、各社員が内容入力および領収書画像を添付するだけで、データ管理や分析まで行うことが可能です。
こうしたペーパーレス化によって、経理担当の作業負担は大幅に低減できるので、人件費をはじめとするコスト削減につながります。
経理部門のDX化に有効な3つのツール

DXは何か一つの改善で完結するものではなく、先述のペーパーレス化は最初の一歩に過ぎません。経理部門のDXはその先にある財務・会計も含めた自動化・効率化を目指すことが大切です。
Excelマクロ
Excelマクロは、Excelの操作や処理を自動化するためのプログラムで、VBA(Visual Basic for Applications)と呼ばれるプログラム言語を使用して作成されます。
通常、Excelはデータの入力や計算・グラフ作成などの作業に便利なスプレッドシートソフトウェアですが、複雑な作業や大量のデータを扱う場合、手作業での処理は時間がかかることがあります。それをExcelマクロの活用により、作業を自動化することで業務効率化につながります。
(Excelマクロの活用事例)
- データの自動入力と整形
受注データや売上データなど、外部から提供されるデータを一括で自動入力し、帳票を作成するマクロを作成することで手作業の入力作業を削減します。 - 勘定科目の自動振り分け
取引データを基に勘定科目を自動で振り分けるマクロを作成します。各取引の明細から適切な勘定科目を割り当てることで、入力ミスや手作業のミスを減らします。 - 予実管理とレポート作成
予算データと実績データを比較し、予実管理のレポートを自動で作成するマクロを作成します。予算と実績の差異を可視化することで、経営判断に役立ちます。
このほか、伝票の自動作成やデータのインポート・エクスポートなど、Excelマクロはさまざまな場面で作業効率の改善が可能です。
Power Automate Desktop
Power Automate Desktopは、Microsoft社が提供する自動化ツールの一つです。このツールは、簡単なドラッグ&ドロップの操作で、さまざまなアプリケーションやタスクの自動化ができます。
(Power Automate Desktopの活用事例)
- 請求書の自動作成と送信
受注システムや売上データベースから請求書を自動的に作成し、顧客に送信するワークフローを構築することで、請求書の発行プロセスを迅速化できます。 - 仕訳帳の自動更新
取引データや経費精算データを自動的に仕訳帳に反映させるワークフローの構築により、正確な会計記録を効率的に維持できます。 - 各種書類の自動生成と配信
決算書や経費レポートなどの自動生成と配信を行うワークフローを構築し、報告にかかる作業負荷の軽減や正確な情報共有を可能にします。
これらの事例はExcelマクロでも構築できますが、ExcelマクロがExcelのファイル内でデータの自動化を行うのに対し、Power Automate DesktopはExcelを含むさまざまなアプリケーションと連携して幅広い業務を自動化できるのが特徴です。
Power BI Desktop
Power BI Desktopは、Microsoft社が提供するデータ可視化とビジネスインテリジェンスツールの一つです。Power BIとは、企業や個人がデータを分析し、リアルタイムで視覚的なレポートやダッシュボードを作成することができる強力なプラットフォームのことで、Power BI DesktopはPower BIサービスと連携してデータの作成や編集を行うためのローカルアプリケーションです。
(Power BI Desktopの活用事例)
- 財務データの可視化と分析
財務データを把握し、会計情報や財務指標の分析を行います。収益・コスト・利益といった財務データをリアルタイムで可視化することで、財務状況の評価がしやすくなります。 - 経営分析と意思決定をサポート
経営分析に必要な財務データやKPIをダッシュボード化し、経営層にリアルタイムでビジネス状況を共有することで戦略的かつ迅速な意思決定が可能になります。 - リスク管理と予測分析
財務上のリスクや市場変動などの要因を分析し、リスク管理の強化と将来の展望につなげることが可能です。
Power BI Desktopは経理部門より財務・会計部門の方が汎用性が高いと言えますが、社内DXの推進には先述したExcelマクロやPower Automate Desktopなど、複数のツールを組み合わせて活用すると、より効率的な経理業務・財務管理を実現できます。
このように、社内DXを進めることで、インボイスについてもデータの読み込みや照合・分類といった新たに負担が生じる作業をミスなく、しかも素早く行うことが可能です。
成功事例から学ぶ経理業務のDX化
成功事例を参考にすることは、自社に適したDXのアプローチを見つける手助けになります。以下は、Microsoft Power Platformを活用した経理業務のDX化事例です。
ある企業では毎月1回、コピー代や社用車のガソリン代など、社内システムからWeb請求書をダウンロードしていました。この作業は当システムにログインして、複数の請求書をダウンロード。その後、フォルダに保存するというものです。
一連の作業は単純なものですが、1つの請求書につき5分ほど時間を要していました。それをPower Automateを活用することで、毎月特定の日にちになると自動的にログインし、前月分の請求書をダウンロード・保存といった作業をしてくれます。
会社別や部署別など、複数の種類がある場合でもそれぞれ区分けしてダウンロードすることが可能です。1回5分の作業が0分になることは、とりわけ複数の請求書がある社員にとって、他の重要な業務をこなす貴重な時間を生み出すことになります。
情報引用元:みどり合同税理士法人グループのサイト(会計事務所が選ぶ 本当に使える成功事例集!Microsoftの「PowerAutomate」)内、CASE11Web請求書のダウンロードはもう必要なし! 経理業務を効率化!→https://powerautomate.midori-tax.jpより
未経験でも1ヶ月以内にできる業務効率化

お伝えしたような自動化・効率化ツールの活用メリットは理解できるけれど、社内にその知識やスキルを持つ人材がいない、もしくは他の業務との兼ね合いもあり適切な人材配置ができないという企業はどうすれば良いのでしょうか。
そこで着目すべき対策が、専門機関での講座受講や社内研修の実施です。
WinスクールではこれからDXを始めようとする企業向けに、DXの入門講座をご用意しております。主にExcelやPower Platform(Power Automate DesktopやPower BI Desktop)による業務自動化・データ分析を体感できるのが特徴です。
経理部門のDX化にこうしたツールは欠かせません。Excelの基礎的がわかっていれば、1ヶ月以内に習得できるカリキュラムです。
社内DXを加速させるためにもぜひ、受講を検討してみてはいかがでしょうか。