
今、国を挙げて企業に後押ししているDX(デジタルトランスフォーメーション)。企業側もDX推進のために、さまざまな施策に取り組んでいます。とりわけ人手不足の解消は多くの企業が抱える課題であり、業務の自動化・効率化に向けた人材育成は必要不可欠です。
この記事では、人材育成の一環として行う研修の中でも企業が期待する成果を得られるカリキュラムや指導方法・研修の進め方などについて、DXリスキリングセンター※人気No.1講師の金子稜先生(以下、金子先生)に語っていただきます。今回、前編では、前職の経験談を踏まえた金子先生の魅力やDXの重要性などを詳しくお伺いしています。
※DXリスキリングセンターは、年間17,000人が受講するパソコンスクール「Winスクール」が、DX推進のための人材やIT技術を活用できる人材を育成するために開設したサービス・情報発信の拠点です。
豊富な経験と専門性が語る講師の魅力

現在、Winスクールの講師として企業向けの集合研修や個人向けのレッスンを担当している金子先生。パソコンスクールの講師になる前は、Webの制作会社に勤務し、ホームページ制作やWebマーケティングに携わっていたとのこと。前職の経験談を踏まえた金子先生の魅力に迫ります。
Q:人に教える技術(講師としてのスキル)はどのように身につけたのですか?講師のお仕事をされるに至った経緯をお聞かせください。
もともとは技術系の業務が担当でした。ただホームページ1つ作るにしても、お客様にヒアリングせずデザインを作ってしまうと、自分好みのデザインになってしまいます。
そのため、制作の打ち合わせには必ず同席して、お客様が求めるホームページはどのようなものなのか(ホームページの目的など)をしっかり把握するようにしていました。おそらく、そういう場数をたくさん踏んだことで、コミュニケーションスキルが自然と磨かれたのだと思っています。
今は講師として、企業の担当者がどのような研修を望んでいるか(研修目的など)を意識しながら、研修を企画・実施しています。相手に簡潔でわかりやすく伝えるなど、人に教える能力は年々ブラッシュアップしている形です。
もちろん、簡単にできることではないのですが、自分自身は楽しみながら受講者と接しています。ただ(講師と受講者は)友人関係ではないので、私自身は自分から挨拶をするなど話しやすい雰囲気を心がけておりますが、技術職の方はそういったコミュニケーションに苦手意識を持っている方が多く見受けられます。
なので、前職では、主にコーディング(プログラムの部分)を担当していたのですが、コミュニケーションを必要とする場面によく顔を出すなど、チームの連携を大切にしていました。
仕事のミスやムダをなくすDXの重要性

金子先生が前職で培った経験は、まさにDX推進において重要な役割ではないでしょうか。実際、技術を身につけることが優先ではあるものの、社内でDXを浸透させるにはマインドやコミュニケーションが必要不可欠です。そのため、企業の人事担当者はDXの重要性を理解するとともに、それを社内に周知する役割を担っています。
Q:企業向けの研修を行う講師として、DXに対する考えをお聞かせください。DXという言葉は国を挙げて進めている施策ですよね。要はデジタル革新のことで、たとえばマイナンバーにしても言えることですが、今までアナログとか手作業で対応していたものをデジタルの力でより良くするというのがDXの本質です。
ただDXという言葉自体が一人歩きしてしまっている部分があるため、想像以上に難しく(敷居が高いと)感じる方が多いのだと思います。でも実際は逆で、仕事を簡単にするのがDXなのです。
たとえば、ノーコードと言ってソースコード(プログラムコード)を書かないサービスは今かなり普及しています。以前はホームページを作るのに色々なプログラムを学ぶ必要がありましたが、ボタン1つで簡単にホームページが作れてしまう時代になりました。
これがいわゆるDXで、実は敷居が低いのですが、世間一般にはなかなか伝わっていないのが現状です。企業によっては、DXを推進するための人材が足りないという意見もあるでしょう。しかし、そういう企業こそDXで仕事のミスやムダをなくし、人手不足の解消につながることがたくさんあります。
もちろん、DX自体が目的になってしまうのは良くありません。DXは業務効率化や新しい価値を生み出す手段なので、DXを進めるにはその目的を明確にすることが大切です。
例を挙げると、普段の業務で困っていることがないか書き出してみます。その中で(月別の勤怠データ集計のように)月に一度しか行わない作業のため、とりわけ新入社員はミスが多いという場合、そのミスをなくすためにExcel/VBAでプログラムを組んで自動化するといったプロセスです。
Excel/VBAは、指定されているものに対して必ず同じ処理をしてくれるので、ミスは確実に減ります。つまり、業務上のミスをなくすという目的に対して、Excel/VBAという手段で生産性を高めていくということです。
どんな仕事にも課題や改善したいことが必ずあるはずなので、それをDXによって解決するという理解が重要だと思います。
DX推進のファーストステップ

企業には組織風土だったり、従業員の年齢や固定観念だったり、さまざまな問題があります。そのため、一言にDXといっても「何から始めれば良いの?」という方もいらっしゃるでしょう。そこで、DX推進にあたって従業員に最初の一歩を踏ませる方法を伺いました。
Q:社内でDXを進めるとき、デジタルに苦手意識を持つ従業員は一定数いるものです。そのため、ある日突然トップダウンで対応するのは難しいと思います。企業の方針にもよりますが、企業マインドをアナログからデジタルにシフトさせるにはどうすれば良いですか?
これはDXに限らず、何か新しいサービスが導入されたり、流行り出したりしたときに必ずぶち当たる壁と言えます。
たとえばスマートフォンが登場したとき、初期からiPhoneを使っていた方はとても少ない状況でした。それが今や年齢を問わず、多くの方がiPhoneを使っています。
なぜ、多くの方が使っているのかと言えば、便利なのはもちろんですが、意外と簡単に使いこなせることも大きな理由です。だから、デジタル化に抵抗するのではなく、気軽にトライしてほしいと思っています。
実際、最初の一歩を踏み出せない企業に対して、DXに関連する無料セミナーがよく開催されています。また自動化ツールのPower Automate Desktopは、マイクロソフトが無償で提供しています。
以前はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のような自動化ツールを導入すると、200万円くらいの費用がかかるので、企業によっては資金面の課題がありました。しかし、今はマイクロソフトが提供している無料ツールがあるので、仮にセキュリティに敏感な企業でも、Excelを使用しているなら技術的には安全にDXを導入できます。
なので、まずはDX関連のセミナーに参加したり、Power Automate Desktopを使ってみたりすることがDX推進のファーストステップですね。
Q:金子先生は現在、DXリスキリングセンターの人気No.1講師として活動されていますが、当センターの講師になられたキッカケは何だったのでしょうか?
やはりDXは国が推進している事業というのが大きいですね。DXリスキリングセンターができる以前から、デジタル化や自動化に関する需要が高いことはわかっていました。
でもDXはその領域が幅広いことや言葉自体が難しいという課題があります。しかしながら、Excel/VBAなどのプログラムを覚えるだけでも十分DXと言えます。
私が伝えたいのは、DXのハードルは決して高くない(敷居は低い)ということです。そういう意味でも今後、多くの企業にDXリスキリングセンターの存在を知ってほしいですね。
次回は…
次回、後編では、DX推進に有効な研修とその進め方や研修の成功事例などを詳しくお伺いしています。ぜひ合わせてご覧ください。